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彼女は走った。
何処へ行くのか。そんな事も考えずに。
だが、今はできるだけ離れたかった。あの光景の場所から。
結局、彼女は逃げるように自室へと駆け込んだ。
一介のメイドである彼女に与えられた部屋は質素であった。
鍵を閉めた後、彼女はすぐにでもその場へとへたり込んだ。
「どうしてこんな事になったのかな……」
それは最前の出来事だけに関した事ではない。
いつからこの国は狂い始めたのだ。
以前は王も優しく、民も皆穏やかな暮らしをしていたはず。
追憶する彼女にとある人物が浮かびあがった。
セシル=ハーヴィ
当の本人は覚えていないかもしれないが、出国する以前にセシルの身の回りの世話を担当していたのが
彼女であった。
彼女がセシルを最後に見たのは部屋に帰ってきた彼と言葉を交わした時だろうか。
ベットのシーツを取り替えたゆっくりお休みくださいという事務的な内容であっただろうか。
もう少し気の利いた事を言ってれば良かったと今更ながらに後悔する。