SubStory 2 nao chora mais(5)"白"

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もう何年前になるのか。おそらく、カインたちと知り合う前なのだろうが。少年とも呼べない年齢のセシルを担ぎ上げ、若き日のシドはまっすぐに指を突き出したのだった。 『ほれっ、いつまでもぐずぐずいうとるんでない。  陛下のような、強いナイトになるんじゃろ?』 なぜ泣いていたのか、そもそもなぜこの家にいたのか。そうしたことは忘れても、あの日自分を支えていた腕と肩の頼もしさを、セシルは今も覚えている。 そしてこの空の広さも──世界の果てまでやってこいと、手招きしていた真夏の雲も。 「わかる気がします」 突然、肩の上でポロムが言い出す。 「このまま飛んでいきたいって、飛んでいける気がするって……  この家にお住まいの人が、飛空挺をつくったのって、私、すごく分かる気がします」 「……ああ、そうだね」 生気に満ちた声が、過去に引き込まれかけていた心を、現在へと呼び戻した。 ポロムの瞳は、彼の頭上を通り越し、地平線を見つめている。 きっと以前のセシルもそうだったのだろう。おそらくはシドも。誰かの肩の上で、涙を拭い一心に彼方を眺めたことがあるのだ。 北から東にかけて、ハーヴィーの森に生い茂る木々が風に梢をきらめかせる。 西は一面マディン草原が広がり、そのむこう、雲と地面が接する際で気まぐれに光るのは、大河イストリーの支流のひとつだ。 流れる雲。遥か高みで輝く太陽。ひっそりと白く浮かんだ半欠けの月。 国や人が変わり果てても、バロンの自然はなお美しい。 世代をさかのぼり、ずっと昔から、子供たちは空に呼ばれていた。 「ここで待ってても良いんだよ」 思いもかけない言葉が、ごく自然に、セシルの口をついて出る。 「辛いなら、無理に戦わなくていいんだよ。  君たちには本当に助けられたし、頼りにもしてた。  来てくれて嬉しかったけど……」 僕らだけで何とかするよ。そう告げる間にも、首まわりをつかんだポロムの手に力が入る。 セシルは膝を曲げ、彼女に降りるよう促した。

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