五節 忠誠と野心8

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「ははは……何をやっている!」 水の壁の向こうから聞こえたカイナッツォの言葉は余裕に満ちていた。 「この壁がある限り、攻撃など……」 すっかりと優越感に浸っているが、セシルの狙いはそこであった。 瞬時、雷が――この密閉された場所に突如発生した。 「ぬお……」 雷の線が幾多にも絡まりながら、カイナッツォを包む。黒魔法サンダラの完成だ。 それと同時に、完全無欠な水の壁は徐々にその形成を失いつつある。 慌てて形成し直そうとしたのだろうが、既にセシルが目の前まで迫っている。 「迂闊だったな!」 思った通りだ……それは絶対的な防御を持つが故の相手の油断。 最前、王として対峙した時点から、この者には迂闊に自分の素性を喋ったりと 饒舌で口外しやすい性格なのだろうと予感していた。 そのようなタイプならば己の絶対的な自信を突けば……読みは見事に正解であったようだ。 「くぅぅ!!!」 焦りつつも己の持つ第二の鎧。甲羅へと体と四肢を潜めようとする。 「まだっ! この程度で!!!」 「今だ!!!」 セシルは咄嗟に叫んで攻撃を中断。挙げ句には後退まで始める。 この不可解な行動……カイナツォは好転と判断した。 何を思ったのか知らんが、一端、体制を―― 目前が白く光った。同じタイミングで全身に痺れが伝わった。 「おおぅ……」 もはや判断すら鈍り、甲羅から姿を現す。其処には…… 「判断を誤ったな! 僕の勝ちだ……」 裁きを下すかのように、手負いのカイナッツォに剣が振り下ろされる。 あまりに突然な事だったので水のバリアをはる事すら出来なかった。 「まだ……終わ……り……で……」 何かを言おうとしたであろう言葉も途切れていった。
力強く言い放ったベイガンは更に続けた。 「王への忠誠は決して曲げないつもりでいました……ですが! 今のこの国を見て私はこうも思ったんです。 今のバロンは何処かがおかしいっ! このままでは良くないと! だから今まで王へ何とか従っていましたが もう限界です!」 セシルは今までこのベイガンの事を過小評価していたと思った。 以前のベイガンはどちらかというと部下には無駄に厳しく、王への態度はやけに謙虚であったのだ。 人によって態度を変えるというやつだろうか。 正直ベイガンのその態度をセシルはあまり快く思わず、王がおかしくなり始めた以降も態度を変えぬ時には、 嫌悪すら覚えるようになった。 だが、今の彼からは今までとは何処か違うものを感じられた。 何かを成す為に行動している。そう映った。 「それでまずは牢に捕まっている人々を助けようとした所、少し気配を感じまして……そしたらセシル殿が……」 「では、協力してくれるか、どうやら目的は同じだろうし」 君がいれば心強い!」 既にセシルはベイガン自身を完全に信頼しきっていた。 「分かりました……」 その問いに、ベイガンは満面にほほえみ、了承した。

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