五節 忠誠と野心19

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「誰だ!」 急に聞こえた足音に看守の男は久方振りかと言った感じで叫んだ。 現に、この場所は当分の間、誰一人として、近づいていない。 彼もしばらくの間は他の人間と会った事も話した事もなかった。 獄中の人間とも最低限の会話しか交わさない。いや、話せなかった。 彼らは、既に生気を失い、虚ろになっていたものが殆どであったからだ。 「ほう……お前さんは魔物ではないのか……ならば」 やがて現れた二つの影……その片方、小柄な男が言う。 「悪い事はいわん……今すぐそこを通してくれんかのお……」 「何をするつもりだ……」 「そこに捕らわれたものを解放するのです……」 もう一人、大柄な男の方が今度は言う。 「何を言っている……捕虜を逃がしたなんて言ったら……私の身に何があるのやら…… 彼が恐れるのも無理はない。少し前に脱獄した者がいた。そして、その時の看守はその失態を 王に問われる事になった。 その後、すぐに彼が後任を任されるようになった。それだけで大体どんな事があったのか分かった。 「やはり無理か……」 「そういう事だ……悪いが――」 直後、看守の体に見えない一撃。 言葉も無く、看守は前側に倒れ込む――寸前にそれを一つの腕が支え込む。 「こうするしかないのか……」 支えた主。ヤンがため息混じりに一言呟く。彼の言葉に後悔の色が混じっているのは当然、看守を気絶 させた一撃もかれの所業であるからに他ならない。 「できるだけ衝突は避けたかったのだが……」

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