五節 忠誠と野心52


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「セシル殿……」
立ち尽くしたセシルの肩にヤンが手を添える。
「よく――」
労いの言葉を書けようとした時――
「僕はパラディンになったのに……やはりこういう事でしか出来ないのか?」
別段、口にした疑問はヤンに問いかけたものではなかったのであろう。
「僕は時々、自分が何をしてるんだろうか? そういった疑問に駆られる事があるんだ」
ただ、己の悩みを一人呟く。答えなど求めてはいないのかもしれない。
「私には……この者はあなたに殺して欲しかったのだと思います……」
しかし、ヤンは何故か答えてしまう。
「え……」
意外な答えだったのか、答えが返ってきた事に驚いたのか、セシルはヤンを見つめる。
「それがこの男の最低限、人間として残ったものでしたのでしょう……」
確かに、ベイガンは自らに止めを刺せと最後に言った。
「でも……これでは前と変わらないんじゃないかな……」
既に、ベイガンとの対峙時の勢いは無く、弱々しい声でセシルは呟く。
「僕は、パラディンになって良かったのかな……?」
「セシル殿」
簡潔に、きっぱりとその名を呼んだ。
「私はその瞬間を見てはいない。それに、貴殿の全てを理解できるつもりはない……」
瞬間とはセシルがパラディンの力を得た事であろう。
「ですが、貴殿の通り道を否定するな。以前にもそういいましたな。それだけは分かって欲しい。
それに……」
ヤンの言葉は続く。
「悩みや、過ちはどんな人間でも背負っているものです。あなた一人だけではありません」
「でも……僕はパラディンなんだ……」
「それは自己過信ですよセシル殿」
詳しくは語らなかったセシルであったが、ヤンには悩みの意図が分かったのか。
「あなたはパラディンになった。ですが、世界の悩みや痛みを一人で背負う事ができるわけはない」
「…………」
「特別な存在だから特別な振る舞いをせねばならない義務は何処にもありませんよ」
パラディン――光ある者。全てを背負う者。
だが、それは買い被りすぎだったのか。少なくとも今のセシルにとって、自らの理想視するパラディン像
は重荷すぎるものだ。
「有り難う。ヤン」
「いえ、あなた自信が再会時言った言葉です。自分はそんなに凄くない……と」
自然と出た感謝の辞を受け止めつつ、そう言った。
「そうだったのか……」
すっかりと忘れかけていた。その間に沢山の事が頭を駆けめぐっていたからなのだろう。
「とりあえず、あまり多くは抱えすぎるなという事です……」
それだけ言ってヤンは言葉を切った。
「すまない。ヤン」
彼には自分の悩みを共有させたくない。自分の悩みだから、人に相談するのは迷惑だ。
例え話した所で、それに対する完璧な回答は得られない。
そう思って、今まで自分の内なる者はなるべく、仲間にも明かさなかった。
だが、ヤンはそんな自分もお見通しだったかもしれない。
考えれば共に国に仕えてた身。理由は違うが国を離れた者同士。
セシルのような若者の悩みを幾多も聞いてきたのかもしれない。
「いえ、ですが私とて所詮は他人。己の問題の最終解決は、己の手によるものです」
無責任でしょうが……と付け加える。
「分かった」
「まだまだ私も未熟者ですから……互い様です」

セシルは奥に続く扉へと手を見た。
「行こう……」
自分が今する事は、王と決着をつける事……それに、カインとも。
何もかもが中途半端で終わってしまっている関係を修復するのだ。
まだ、疑問の答えは出ない。これから分かる事もあるかもしれない。だが、もしかしたら一生かかっても
答えは見つからないかもしれない。
それでも自分は、カインもローザも、人は先に何があるのかを確かめる探求をしていくのだ。
そうしなければ生きていけない。生きられないのだ。

その時のセシルには……すっかり失念していた事があった。
あの何度も記憶に蘇った夢。
それが――実現する予兆は心の片隅にあったのかもしれない……
しかし、もしそうだとしても、誰が阻止できるだろうか?
どのみち、セシルは……人は何者かに助けられるしかないのか?
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