額からだらりと汗が流れる。視界がぼんやりと滲み、足がふらつく。
最近何度も見舞われている症状だ。
口ではいくらでも強気な言動は出来るが、体は正直だ。
自分の体なのだ。自覚しないわけはない。
もはやこの体は――
だが…ここで倒れる事など、決してあってはならぬ。自分にはどうしても為さねば
ならぬ事がある。
残された時間はもはや僅かなのだ、残り僅かなこの灯火の一欠けらでも多くを奴にぶつけて
やらねばならない。
塔の中枢部へと進むにつれ、その感情はますます高ぶりを見せ、自然と歩幅も大きくなっていく。
「!」
瞬時に体へと激痛が走り、テラは声にならない呻きを漏らした。
「テラ殿! 大丈夫ですか?」
気の利くモンク僧はすぐにでもテラを気遣った。
「心配するなヤン――ご老体の我儘じゃよ。無視してくれ」
とてもでないが歳だけのせいにするには無理があったが、精一杯に強がって見る。
「本当か?」
いつもはテラに対して軽口を叩くシドも珍しく心配の様子だ。
短い付き合いながらも、幾多の運命の巡りあわせにより、腐れ縁という関係にまで昇華した彼には
苦し紛れの言い訳など通じないのであろう。
「何所かで体を休まれるべきなのでは?」
ヤンが周囲へと視線を走らせる。
「いや、一刻も早くローザを助けるべきだ! そうは思わぬか?」
ヤンの提案をシドへの疑問へと変える。
「ああ、勿論それはそうじゃが……」
ローザを愛娘の様に可愛がっていたシドだ。親バカとでも呼べる熱血っぷりでローザ奪還への闘志を燃やして
くれるものだと期待してのだが、どうにも釈然としない解答だ。
実際のところテラにとってローザを助ける事やカインの事などどうでもよかったのだった。
先程の提案も先を急ぎたいばかりに出た方便なのだ。彼にとって目的はただ一つ。
生涯愛するべき存在であり、自分の生涯を看取ってくれる存在である愛娘――アンナ。
彼女を自分のような老い耄れよりも先に、先立たせてしまった戦争……バロン国であり、赤き翼でありギルバートで
ある点を結ぶ線――ゴルベーザ。奴への復讐ただ一つなのである。
だが……復讐の旅の最中、セシルやポロムとパロム、ヤンやシド……ギルバート達と言った仲間達に出会うにつれ、少し
だけ復讐のためだけに行動する自分に情けなくなっていた。
仲間たちの誰もが自分や他の仲間達の為に気持ちを押し殺していた。そして時には自らを犠牲にしてでも仲間の窮地を
救う時があった。
当然ながら、テラ自身も悲しみにくれる時があった。だが、いつもそれ以上にゴルベーザへの憎しみが勝っていた。
復讐ただ一筋。まるで自分の事しか考えていない自らの所業に対して、少しづつながら嫌悪感が生まれていた。
そして、時折自分の成すべき復讐に疑問を抱く時間が生まれた。今まで自分は全ての点を結ぶ存在をゴルベーザと見ていた。
それは本当に正しかったのか? ゆっくりと考えて見れば、奴が何者であるのか自分はまだ何も知らないのではないか?
もしかしたら奴さえも、クリスタルを巡る一連の騒動から見れば一つの手駒に過ぎぬのではないのか。
何度か考える時もあったが、体が疼く度に、復讐心が蘇り、テラの疑問は吟味されるものの、確信をえた考えにまとまることは無かった。
最終更新:2009年04月14日 15:43