「失礼します」
結論を出し横になった体を起こそうとした瞬間、部屋の外から入室の合図を告げる声が聞こえた。
(ローザか?)
扉越しからでも曇ることなく聞こえる澄み切った声は間違い無く女性の者であった。
(違うな……)
即座に自分の第一案を否定した。声の色はまだあどけなさが残りきっていた。
「あ……お目覚めになられましたか!」
声主の少女――セシルの部屋を任された幼さの残るメイドは入室と共に驚きの声を上げた。
「失礼しました! 返事も待たずに勝手に入ってしまって……でも良かったです」
最後の方は敬語から安堵の息を感じさせる言葉になっていた。
「もうこのままずっと起きてこないものかと思いました……」
そう言って彼女は瞳に涙を浮かべた。
「私の様な者がセシル様の心配をするなんて失礼かもしれませんが……」
「そんな事ないよ……」
従者という身寄りから来るのか、慌てふためく彼女の頭をセシルは優しく撫でた。
「あ、の……セシル様……!」
セシルの行為は彼女に安心を与えるよりも先に混乱を与えてしまったようだ。
「これは一体……どういう事ですか!」
緊張しどぎまぎする彼女は少女そのものであった。
「あ……いや、すまない」
純真な優しさを表したつもりであったのだが逆効果であったのだろう。
「いえ……ご好意は大変嬉しいのですが、いえ!」
慌てふためき彼女は自分頬をぱんと一手叩いた。
「とにかく、良かったです。私、皆さんに伝えてきますね……セシル王がお目覚めになられたと……」
「え?」
急に話題を変え、そそくさと退出しようとする彼女を見送りつつ、セシルの疑問は更に募ることとなった。
(聞き間違いか……?)
(否、彼女は確かに言った)
(僕の聞き間違えなんかじゃない)
思考の中で彼女の言葉を何度か反照する。疑問が確信へと変わる。
(彼女は間違いなく僕の事をこう言った。セシル「王」だと――)
最終更新:2009年11月09日 01:16