彼が去っていくと、それだけで、部屋を満たしていた優雅な空気はあっという間に
薄らいでしまう。取り残されぽつんと佇んだまま、ようやくティナはエドガーの
言葉をおぼろげに噛み締めた。
……そうね。
普通の女の人なら…その言葉に、きっと何かしらの感情を示すのね。
でも。
彼女は小さく目を伏せる。
私は普通ではない、私は。
私は、いったい何なんだろう。
「よろしければ、城内をご案内いたしましょうか?」
「え?」
突然、思考に入り込んでくる控えめな声。いつの間にか、玉座の脇に控えていた衛兵の
片方が側に寄り、すこし頭を屈めてティナの様子をうかがっていた。
「エドガー様はしばらくは戻られません。それまで城内は自由に見せてよいと
言いつかっておりますので、さしつかえなければ」
「…いえ、結構です」
愛想の無い返事に気を悪くする様子も無く、男はまた元の位置に控える。対照する
位置に立っている衛兵が、からかうように軽い哀れみを含めた笑みを相方に向けた。
部屋を出ようとして、ふいにティナは立ち止まる。
「……あの…」
「なんでしょうか?」
つっかえた言葉を押し出すように、唾を飲む。
「…やっぱり……、案内していただけますか」
二人の衛兵は少し驚いたように顔を見合わせ、けれどすぐに「喜んで」と応じた。
最終更新:2007年12月12日 00:16