ff6 - 19 bekta

常勝セリス。
 そう言われるようになってから久しい。弱冠19歳のセリスが現在将軍職に就いているのは、己の天稟ではなく、揺籃期に注入された魔導によるものだった。
 英才教育の果て(帝国はきっとそれを「賜物」と呼ぶのだろうが)に魔導を自制できるようになり、皇帝はその褒美とばかりに将軍職をセリスに与えた。「登りつめる」と呼ぶには、余りにも安直な登用。抜擢と言うには平易な、まるで子供にお菓子を与えるような簡易さであった。

 真紅のベッドに倒れこむ。天蓋が揺れた。ようやく戻った自室で、セリスは脱力する。
 感情はフラットに。
 何重にもプロテクトして。
 躊躇も逡巡も葛藤も黙殺して。
 眠りに落ちていく瞬間は、いつも、節の目立つようになった己の指を見つめる。うつ伏せになった肩に落ちかかる髪が、重たげな月光を反射する。

 お菓子に喜ぶ子供でいられればよかった。
 魔導アーマのような機械であれば、何も思い悩む事はなかった。

 窓の外には、高い位置に、満月に少しだけ足りない月。
 満月を過ぎた月。

(常勝将軍などと持て囃されても、その実、自分のあとには「人工的に魔導を注入した人間」など一人も出ていないではないか)

 そう、現存する魔導注入の被験者は、自分とケフカだけなのだ。
 あの、ケフカと。
 セリスは髪の一束を掴み、握る。

 苛立ちを抑える術はなく、只管に月を睨み、己の指を呪った。
 この苛立ちは、やがて欠けていく月のようにいつか消えてくれるだろうか。

 眼を閉じる。

 消え去ってしまえ。

 呪うように、祈った。

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最終更新:2007年12月12日 00:24
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