「この部屋はね、エドガーが子供のころに使っていた部屋なのよ。
あの人が王位を継いでからは、私にこの部屋を譲ってくれたの」
招き入られた神官長の部屋の中。二人分のお茶を煎れながら、老女は嬉しそうに話す。
「婆やなら、このベッドでも十分な大きさだろう、ですって! 馬鹿にしてるのよ!」
そうやって腹を立ててみせる彼女は、けれどそれがエドガーの紛れもない愛情の表現だと
もちろんちゃんと知っているようだった。
部屋を見回してみる。老女はその印象通り慎ましい生活を好むようで、小さな部屋には
よく整頓されており質素な空気が満ちている。でもよく見ると本棚に童話が入っていたり、
壁に背比べのような傷がついていたり、確かに昔はそこに子供がいたという名残がたくさん
残っていた。
ふと、ティナは首を傾げた。
「二つありますね」
「え?」
「ベッド、二つありますね」
老女はしわがれた笑顔に、少し淋しさを混ぜてティーカップを置いた。
「……えぇ。エドガーには双子の弟がいたのよ」
「双子?」
「そう……、双子といってもね、似ているようでちっとも似てなくて……」
「……エドガーの双子」
「マッシュと言うの。とても……優しい子だったわ」
口端を歪ませながら、彼女はそっとベッドに手を伸ばした。愛おしさに溢れた彼女の
手つきは、まるでそこに小さな子供が眠っているような錯覚をティナに思わせた。
最終更新:2007年12月12日 00:57