二節 剛の王国3

「再びそなたの顔を見ることができて嬉しいぞ、ヤンよ」
王の待つ謁見の間に入り、玉座の前に一様に跪いた3人を前にして、ファブール王はそう切り出した。
王は見たところ既に齢にして60は超えているが、衣から僅かに覗く鍛えられた肉体が、
彼もまた歴戦のモンク僧である事を物語っている。
「私も再びこの都に帰る事が出来、嬉しき限りにございます」
ヤンが、頭を下げたまま答える。
すると王はため息をつき、物憂げにこう言った。
「しかし状況はあまり芳しくないな…
 バロンが近々攻めてくるという時に重なり、国の主力たるそなたの部隊もほぼ壊滅とは」
「申し訳…」
「よいよい。バロンの動きを読むのが遅すぎた余のせいでもある」
謝罪しようとするヤンに王は告げ、代わりにセシルに目を向けた。
「それよりもはっきりとしておきたい事柄はそちのことじゃ…
 そちのその出で立ち、バロン国の暗黒騎士と見うけるが、名はなんと申す?」
「セシル…セシル・ハーヴィと申します。察しの通り、私はもともとバロンに使えていた身です」
兜の裏で苦い表情を作り、セシルが答える。
「セシル…聞いた事のある名じゃ。余の記憶が正しければかの”赤い翼”の長では?」
蓄えられた髭を撫でながら目を細めるファブール王に、暗黒騎士が小さく頷く。
「しかしミシディアの戦いから凱旋した直後に国から離れ、召喚士の村ミストを焼き滅ぼしたとか…」
「いえ、それは誤解です!」
王の言葉に、慌てて顔を上げ、ギルバートが突然叫んだ。
瞬間、王や王の重鎮達の視線が一斉に彼に向けられる。
と、そこで王はやっと気がついたようだった。
「…もしや、もしやそなたはギルバート王子ではないか?」
目を丸くするファブール王に、彼は「お久しぶりです。陛下」と微笑した。
「これは驚いた!ダムシアンが皆殺しに遭ったと知った時、そなたも共に殺されたとばかり思っておったぞ」
「ええ。父や母、さらには恋人をも失って絶望に暮れていた所を、彼に助けられました」
頷きながら、ダムシアンの王子はこう明言した。
「ミストの件は彼を国から引き離すための策略だったとの事。
 陛下、セシルは断じて我らの敵ではありません」

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最終更新:2007年12月12日 03:56
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