二節 剛の王国15

王が負傷の知らせはヤンの耳にも届いていた。その為、兵の士気は圧倒的に落ちていることなど想像するに容易かった。
ヤンも引き際が分からぬ程、愚かではなかった。
「さあ、早く!」
「待て!」
後ろずさるヤン達を尻目にセシルは前へと踊り出す。
「カイン、どうしてもやるというのなら僕と戦え。君が勝てばクリスタルを好きにしていい」
「一騎打ちというところか? いいだろう。受けて立つ」
「セシル殿!」
先程よりも強くセシルの肩を掴むヤン。
「すまないヤン。でもこうさせてくれないか。僕は……」
「うむ……承知した」
数瞬の後、ヤンは手を離した。
兜に隠れて表情は伺えなかったが、その時のセシルの顔はヤンを納得させるのに十分であった。

しばらくの後、クリスタルルームの中心に二人の男が睨み合う形で向き合っていた。
「カイン、一つだけ聞いて良いか?」
「一つだけならな」
無愛想な返し、それはいつものカインと変わらぬものであった。
「あの時の約束は嘘だったのか?」
ミストが滅びた日……セシルとカインが別々の道を歩き始めた日。
「…………」
「答えろ、カイン」
「ふっ、敢えていうなら覚悟がなかったんだな」
「覚悟?」
「お前は国に背き、今こうして抗おうとしている。俺にはそれだけの覚悟が無かったというだけさ」
言い終わらぬうちに槍を構える。準備万端という所か。
「だから今、俺たちは戦おうとしている。自らが守る者の為に。違うか?」
「……分かったよ、カイン……それなら僕も手加減はしない」
「そうでなければな。セシル、お前の覚悟見せてもらうぞ」
暗黒騎士セシル、竜騎士カイン……バロン最強の二人の戦いが今まさに始まろうとしていた。

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最終更新:2007年12月12日 04:00
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