三節 Two of us16


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「カイン、まさかあなたが・・」
 ローザはまたカインに尋ねた。だがその声には、もはや先ほどまでかすかに残っていた
信頼の影はなく、既に決定した事実を問責するに近いものだった。その音色に耐えきれ
なかったのか、カインは立ち上がり声を上げた。
「違う! ローザッ、違うんだ!!」
 だが、その声は動揺しきっていたローザを刺激し、彼女は思わず身を引いた。
 それはごく小さな動作だった。しかし、カインの目にはそうは映らなかった。彼女が
自分から離れたという事実、そしてほんの少しだけ後ずさったその距離は、もはや彼には
永久に埋めることの出来ない空白のように感じられた。
 カインはすがるように彼女に向かって手を差し出す。しかしローザはさらに後ずさり、
不安げにセシルの胸に手を添えた。そして彼の中で、何かが崩れた。

「・・俺は・・・・」
 カインは膝をついた。だらり、と首が垂れて兜が落ちた。
 生気を失った表情があらわになり、もう一度、人形のように顔を上げてローザを見た。 
彼に応える視線には、かつての温もりなどもうどこにもなかった。
「や・・めろ、・・やめてくれ・・・・俺を・・見ないでくれ・・・・」
 ふいに苦悶の表情を浮かべると、カインは頭を抱えて震えだした。
 先ほどまでとはまったく異質の狂気が彼を覆っていた。かっと目を見開き、まるで
熱病にでもかかったように、噛み締めた歯からはカチカチと音がなった。額には血の筋が
浮かんでおり、嗚咽のような唸り声をあげたまま、引き裂くように髪をかきむしっている。
彼は何か巨大なものに追われ、それから必死で逃げようとでもするようにもがいていた。
 動揺と猜疑、それに恐怖の混じった視線を向けていたローザは、まさに狂人たる有様の
カインの様子に戦慄した。
 だが同時に、その弱々しさはかえって彼女の母性を震わせ、かつて友であった彼の
面影を思わせた。
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