三節 Two of us29

「ほら、おとなしく横になって!」
「わかった、わかったよ」
 乱暴に布団をかぶせるリディアに、セシルは苦笑しながら横になった。
「君も休んだ方がいいよ、リディア」
「いいの、もうすこしで傷も全部治るんだから」
 リディアはエーテルを口に含みながら張り切っている。素直に言うことを聞きそうに
無い。セシルはため息をつきながらも、嬉しそうな顔で目を閉じかけた。だが、ついと
横を向いたときにとんでもないものが目に入ってきた。
「・・!? リディア! いったい何本それを飲んだ!?」
「・・・」
 リディアは黙ってセシルの胸に手を当てている。セシルは、ベッドの脇にある棚の上に
散乱している、エーテルの空き瓶の山と彼女を見比べた。
 エーテルには魔力の源となる精神力を回復させる効果がある。昔から魔道を志す者達に
重宝されてきた良薬なのだが、薬という代物は大なれ小なれ必ず何かしら副作用を伴う。
エーテルにしても例外ではなく、限度を超えて服用し続ければ、それは著しく体力を
損ねる毒となり得る。まして彼女のような幼い子供がこの分量を・・。
「リディア! すぐに休むんだッ!」
「いいのよッ!」
 強く頭を振るリディア。セシルは身体を起こし、なだめるように語りかけた。
「・・いいかい、リディア。君のおかげで僕は命を取りとめた。そのことは本当に感謝
しているよ、・・ありがとう。
 だけど、これ以上はもういいんだ。今度は君の身体の方が壊れてしまう。だから・・、
お願いだからおとなしく休んでほしい」
 彼女はうなだれ、しょぼくれた様子でセシルの言葉を聞いていた。けれど、やがて
でてきた返事はやはり、否定のそれだった。
「いやよ・・・・」
「リディアッ・・!」
「だって! だって、あたし何も出来なかった! ローザも守れなかったもの!
 あたし・・、あたしだけ何もしてない!!」

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最終更新:2007年12月12日 04:20
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