ふいにリディアは涙を流した。
ありがとう、セシルのその言葉が、リディアの心に穏やかな波紋をもたらしていた。
彼女は嬉しかったのだ。
(ごめんなさい・・)
あのとき、自分は黙って見過ごしていた。偉そうなことを言って、強引にギルバートに
ついてきたくせに、何も出来なかった。怖かったのだ、あたしは臆病者なんだ。
そのくせ、今こうして彼女の場所に・・、そう、セシルの側にいて、彼を独占していることが嬉しかったのだ。たまらなく。それどころか、そこはもともと自分の場所だった
のだから、とすら考えている。臆病なだけではない、あたしは卑怯者だ。
(ごめんなさい・・)
リディアは溢れ出る涙を拭いながら、声を抑えてセシルの胸に手をかざし続けた。
懸命に手先だけに意識を集中しようとしたが、涙はいつまでたっても止まらなかった。
(今・・何時かな)
いつしか涙は薄れ、泣きはらした目の赤みも消えたころ、ふとリディアはうとうと
しかけた頭を振り払い、ぼんやりと思った。
暗闇の中、見えるわけもない時計の姿を探してみる。そういえばこの部屋には時計
なんてなかった、そう気づくまでにも随分と時間がかかった。
セシルが寝入ったのが夕暮れ時、それからゆうに6時間ほどが過ぎている。いい加減で
眠気もピークに達し、先ほどから睡魔が彼女の頭をコツコツと小突いていた。
(・・顔でも洗ってこようかな)
フラフラとおぼつかない足取りで、リディアは椅子から立ち上がった。
最終更新:2007年12月12日 04:21