三節 Two of us34

 セシルはまじまじと剣を眺めながら、胸の内で動揺を隠せなかった。
 暗黒騎士のつかう剣は、技者がその力を用いる度に徐々にその刃自身にも闇を蓄え、
やがて黒みを帯びだしたそれは、まさしく暗黒剣と呼ばれる魔剣になる。
 だがこれほどまでに深々とその身を黒に染めている剣など、未だ嘗て見たことが無い。
「いったいこれは・・」
「かつて、この国を訪れた暗黒騎士がもっていたものだ。
 ・・恐ろしいほどの強さを秘めた男だった。何処から現れたのか、その素性も目的も
知れなかったが、ただ彼の騎士が去った後にこの剣が残されておった。
 どうせ我々には縁のないもの、セシル殿の旅に役立てていただきたい」
 セシルはそっと柄を握った。たちまち剣から暗黒の霧が腕に流れ込み、全身が粟立つ
ような錯覚を覚える。
(こんな剣を使いこなす騎士・・・いったい誰が?)

「・・だが、セシル殿」
 思考にとらわれていた視線を戻すと、王はセシルをまっすぐに見すえていた。
「そなたのつかう暗黒剣は・・確かに強力な力だ。そして、その力で我々のために戦って
くだすったことは、大いに感謝しておる」
「・・・」
「だが、いつかその力を捨てねばならぬ日が訪れるはずだ。
 所詮それは闇の力。真の悪には通用せん。そなたのような人間ならば、必ずそれを
捨てるべきときが訪れるだろう。そのことを、思い留めておいていただきたい」
「・・・・心得ました」
 王の言葉は重々しく彼の胸にのしかかった。それは、彼自身も感じていたことだった。
 自分の力が、カインにまったく通用しなかったとき、そして彼の放つ暗黒の力よりも、
もっとどす黒い闇をまとった、あの男をみたときから。いや、心をかすめだしていたのは
それよりももっと先からだったかもしれない。
(しかし、どうすれば?)
 その答えがどうしてもわからない。おそらく、このファブール王すらも、自分にそれを
与えてはくれないだろう。だから今は、この忌まわしい力に頼らなくてはならない。
いつか光を得るために。セシルは死の香りを放つ大剣を、複雑な想いで鞘に納めた。

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最終更新:2007年12月12日 04:21
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