「陛下」
それまでじっと控えていたヤンが、俄に口を開いた。
「なんだ、ヤンよ?」
「まことに勝手な申し出とは存じておりますが、この私もセシル殿に同行させて
いただきたい所存であります」
セシルは目を見開きヤンを見た。だが、口を挟もうとしたセシルにヤンが向けた
視線は、鮮明に彼の意思を物語っていた。
(何も言わないでほしい)
「・・つまり、国を出たいと言うことか?」
王が厳しい表情で尋ねる。一国の統治者たる威容に満ちた口調だ。
「・・ハッ」
「今この期に、復興の中心となるモンク隊の要であるおぬしが、この国を離れるという
ことが、どういう意味かわかっておるのだろうな?」
「・・ハッ」
「・・二度とこの国に戻らぬ覚悟か?」
一瞬、冷たい沈黙が流れる。ヤンはごくり、と唾を飲んだ。
だが、彼はすぐに、迷いの無い口調で言葉を続けた。
「陛下・・、私は祖国であるこのファブールを心から愛しております。私のような未熟な
人間をここまで取り入れてくだすった陛下のご配慮も、決して忘れてはおりません。
しかしながら、今は一国の存亡にのみ固執しているべきではないように思うのです。
あのゴルベーザという男がなにを企んでいるのかは図りかねますが、しかしそれによって
この世界にもたらされる危険は、おそらく我が国やダムシアンが受けたものよりも比べ物
にならぬことでしょう。
・・私はこの国に、陛下に忠誠を心より誓いました。それは今も、この後も決して
変わりませぬ! しかしながら・・!」
最終更新:2007年12月12日 04:22