突然、王は高らかに笑い出した。
ヤンをはじめ、呆気にとられている面々に、やがて王は向き直って笑いかけた。
「はっは、いやすまぬ、すまぬな。許せよヤン。
ぬしのような貴重な人材がいなくなるというのは、薄情な話ではないかと思ってな。
少しばかりおぬしをからかってみたくなっただけよ」
「・・は?」
「ヤンよ、ぬしの気負いはしかと見届けた。セシル殿の荷物とならぬようにな」
「・・! かたじけのうございます」
「よい、よい。もとよりおぬしの気質は把握しておる。
そう言いだすことだろうと思って、既に細君には旅立ちの旨、伝えておいたぞ」
「まっ、まことですか!?」
「ぬしはとんだ甲斐性なしだと腹を立てておったぞ。早く会いにいってやるがよい。
そうだ、ウェッジにもな。ぬしがいなくなれば、彼奴もひどく寂しがるであろう」
「ハッ! ・・陛下、まことに、まことに・・!」
ひれ伏すヤンの声は、言葉にならなかった。目の前の老王の度量、その部下を知り
尽くした寛大さ。それを受けて、感動に打ち震えるヤンの後ろ姿を見て、セシルは深い
感銘を覚えていた。ヤンと同じく、国に仕える身分であった彼には、その光景の美しさが
我が身のようによくわかった。
そして、それが失ってしまったいまの祖国が、いっそう哀しかった。
最終更新:2007年12月12日 04:22