三節 Two of us40


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「さて、そろそろ部屋に戻ろうか。抜け出したことが妻に気づかれると面倒でな」
 セシルへの気遣いからか、それとも本音なのか。苦笑するヤンにセシルは顔を
ほころばせた。そういえば、自分もリディアに内緒で抜け出してきたのだった。
「そうだね、そろそろ・・」
 いいかけて、セシルは顔を上げた。にわかに空を覆っていた雲が晴れ、のぼり
きった月が顔をだし、訓練場の彼らに柔らかい光彩を注いでいた。ヤンも目を細め
ながら、その美しい照明を仰いだ。すると、透き通った光に再び影がさした。
また雲がかかってしまったのだろうか。
「!」
 次の瞬間、ヤンは腰に下げていた炎の爪に手をかけていた。雲ではない。
月光を遮ったのは、バサバサと翼をはばたかせながら降下してくる深緑色の巨体。
手負いのまま訓練場に姿を潜めていたガーゴイルであった。明かりが差したので
見つかってしまったものと勘違いし、追いつめられて飛び出してきたのだ。そこで
先刻からの体力の消耗に加え、武器を収めた方を有利とにらんだのか、魔物は
真っすぐにセシルの喉笛めがけて襲いかかってきた。
 だが、その鍛錬でむしろ熱を帯びて、セシルの五体は針のように研澄まされていた。
一瞬の内に鞘から滑り出た魔剣は、ヤンが身構えた時には既にその力を放っていた。
魔物は悲鳴を立てる間もなく絶命した。
 ドシャリ、と鈍い音とたてて落下してきたそれに、ヤンは驚嘆の意を隠せなかった。
波動の直撃を受けた魔物の肉体は、上顎から腰に至るまで、真っ二つに掻っ捌かれて
いる。裂けた断面は奇妙に滑らかだ。恐ろしいまでの高熱で焼き切られたのだろう。

 ────凄まじい威力だ。

「すごいものだな・・」
 彼にも珍しく、ヤンはしごく単純な賛辞を口にした。うすっぺらく、意味の足らない
表現なのだが、他に言いようもなかった。
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