三節 Two of us41

 ところが当のセシルを見やると、何故かぼんやりとした様子で、ビクビクと痙攣する
魔物の死骸を見つめていた。まるで、彼自身も驚いているようにすら見える。
「・・・」
「・・セシル殿?」
「・・・・・った・・」
「なに?」
「・・・・・・違った」
 訝しげな表情のヤンを見据えて、セシルは言った。
「・・カインだと・・思ったんだ」
 愕然と見開いた目で自分を見つめるセシルを、ヤンは黙って見つめ返していた。
やがてゆっくりと大きな息を押し出すと、彼の肩に手を添えた。
「・・気が昂っているのだ、セシル殿。そなたはあまりに多くを抱え込みすぎている。
 その重みに精神が戸惑っているのだ。・・もう、休まれよ」
 セシルはしばらく虚ろな目でヤンを見ていた。が、やがて視線を落とすと、
「・・わかったよヤン。でもすまないが、もうしばらくひとりにしてもらえるかな」
「うむ・・・では」
 それ以上の言葉は無為とみて、ヤンは訓練場を去っていった。その背中を見送り
ながら、セシルは先ほどの思いを振り返った。
(彼に打ち明けるべきだったろうか)
 彼はすぐに頭を振って、その考えを否定する。
 そんなことをして何になる。彼に自分の汚い部分を共有させて楽になろうとでもいう
のか。それに、そもそも彼にわかるはずもない。よしんば形だけ理解できたとして、
彼は必ず、深い親愛をたたえた口調でこういうだろう。
「疲れているのだよ、セシル殿」
 それでは何にもならないのだ。セシルは先ほど自分が屠った死骸に目を戻した。
光を背に受けてこいつが飛びかかってきたときは、確かにその姿がカインに見えた。
 だが、問題は魔物と親友を見間違ったことではない。彼と知った上で、自分が何の
躊躇もなく手を下そうとしたということだ。

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最終更新:2007年12月12日 04:26
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