FINAL FANTASY IV プロローグ8

「来おったかー、セシル!」
兵に混じり、シド技師長の銅鑼声が、詰め所を訪れたセシルを迎えた。
奥の席で膝を崩し、沈んだ空気を跳ね除けるかのように、ジョッキをあおっている。
飛空挺の生みの親とも言えるシドが、この場所に顔を出すのは珍しいことではない。
『翼』の由縁たる天駆ける船を完成させ、整備を担う部下を育成し、さらなる性能の向上に心血を注ぐ。
彼が果たす役割は、飛空挺団という組織にとってある意味、指揮官よりも重要だ。
少々頑固だが面倒見がよく、実直な人柄もあって、目下からの敬意をよく集めている。
”騎士の代わりは大勢いるが、シド技師長はひとりしかいない”などと、軽口を叩く隊員は後を断たない。
「いろいろと言いたいこともあるが、まずはヒヨッコどもを大人しくさせるんじゃな。
 騒がしくてかなわん」
邪気のない悪態に、誰かが忍び笑いを洩らした。
「皆、もう聞いているようだが……
 本日陛下から、飛空挺団隊長の職を辞し、幻獣討伐の任に就くよう申し渡された。
 後任については、近日中に通達があると思う。急な話ですまない」
セシルが口をひらくと、詰め所を満たしていたざわめきが、霧のように引いていった。
重い沈黙の中、シドひとりが、素知らぬ顔で喉を鳴らす。
やがて気落ちした声が、詰め所の床を叩いた。
「……申し訳ありません。
 我々が、不平など洩らしたばかりに……」
「気にするな。間違ったことを言った訳じゃない」
”赤い翼も堕ちたもんですよ!”
”なんと後味の悪い任務なんでしょう……”
クリスタルを奪ってバロンへ戻る道中、疑問の声を耳にするたび、セシルは彼らをたしなめた。
それが隊長としての務めであり、何より彼は、王を信頼していた。……していたがっていた。
だがやはり、内心は同じ思いでいたことを、部下たちは承知している。
誰もが抱いていたやりきれなさと、原因となる命令を下した王への不審。
その代償を、セシルひとりに負わせてしまったように感じているのだ。
これ以上、彼らを不安にさせてはいけない。
「陛下もいずれ、お心の内を明かしてくださるだろう。それまでの辛抱だ」
セシルはあえて楽観的に、自分自身を含めた全員に言い聞かせた。

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最終更新:2007年12月18日 05:42
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