薄暗い森の中を歩いていくと、深淵の闇の中には不釣合いな小さな駅があった。
彼女はその小さな駅のプラットホームをただ歩いていく。
少し歩くと、ベンチに初老の男性が座っているのが見えた。
「ん?」
こちらに気づいたようだが、彼女は人見知りな性格もあってか近づくだけで話しかけようとはしなかった。
が、その男性は彼女に話しかけてきた。
「やあ、君も列車に乗るのかい?」
優しい口調で話しかけてきた男性に少し気持ちが和らぎ、静かに口を開く。
「はい、森で迷ってしまって。次の列車は何時来ますか?」
「迷った?」
その口調はどこか訝しがっているように思えた。
「森に入って帰ろうとしたら目印を見失ってしまって―――
でも、こんなところに駅があるなんて思いませんでした。
次の列車で、街にでようかと思います廃駅かとも思いましたけど」
話し終わるや否や、その男性はゆっくりと立ち上がり、彼女の手を握った。
少しビックリして腰を引き後ずさりしたが、彼はすぐに手を離した。
「すまないね。いや、どうやら違うみたいだ。私と同じだな」
何を言っているのか分からぬうちに、男性はまたベンチにこしかける。
最終更新:2007年12月18日 05:45