竜の騎士団 8

「でも私もだいぶ上達したと思います。父上にもぜひ見ていただきたいものです。今度の遠征は
随分と長いようですから、お稽古を付けていただくのが待ち遠しいです」
 かりそめの陽気がうすれ、また副長の心にいつもの罪悪感がたちこめだした。
 父はもういない。何度も何度も顔を合わせながら、彼にはどうしてもこの子にその残酷な事実を
告げることができないでいた。

「任せてよいのだな」
 後見を申し出たとき、王は副長にそう尋ねた。くたびれた目尻にいっそう皺を寄せ、王は冷たい
押しつぶすような眼差しを副長にぶつける。静かな威圧が、言葉以上に雄弁に問いかけた。
 時期を得てカインに事実を告げると言う大任。それを委ねてよいのだな、と。
 彼は即座に頷いた。
 だが、実際それはあまりに重い役目だった。第一、事実を告げればその重圧はそのままカインに
のしかかるのだ。副長は隣を歩くカインに目をやる。視線に気づいたカインは、無邪気な笑顔で
それに応えた。この笑顔を曇らすことなど、どうして自分に出来るはずがあろうか。
 彼は本当にカインを良く知っていたのだ。しわくちゃな顔で泣きわめく赤子の頃も、槍を支えに
立ちだした頃も、そして母を失った苦しみに悶えていた頃も、ずっと見ていた。初めてゴブリンを
倒したときも側にいた。入学式に参列した時などは、本当に我が子のような気すらしたものだ。
 けれど、カインは彼の息子などではない。たとえ副長が後見を引き受けようとも、カインが父の
死を知らない以上、彼はカイン=ハイウィンドであり続ける。そしてカインがそれを知ったとき、
彼が何を選ぶかは誰にも分からない。

 まだ早い。
 そうしてまた、彼はいつものいいわけを心の中でつぶやいた。まだ早い、と。
 その言葉が通用しなくなる時期は、すぐに訪れると分かっていながら。
 そして今日も、空っぽのあの家にカインと歩いていくのだ。

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最終更新:2007年12月12日 22:48
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