それからひと月ほどがたったある日のこと。
「副長! 外を!!」
血相を変えた部下が執務室にかけこみ、副長を外に連れ出した。
まもなく耳に入ってきた巨大な羽ばたきの音で彼は事態を察した。
「ご子息!」
優雅な白い両翼を広げた飛竜の王が、その背にカインをのせて飛んでいた。
(────信じられない! 飛竜が主人以外の人間を背に乗せるなど!)
しかし現実にカインは竜の首を撫でて誘導すると、副長のそばまでゆっくりと近づいてきた。
「フクチョウ、父を捜して参ります。どうかご心配なさらないでください」
「カインッ!!」
思わずその名を呼び止めた時には、既に飛竜は空の彼方を泳いでいた。
────言えなかった。あの子に事実を、言えなかった。
しばし立ち尽くしてから、彼はやっと思い立って自分の飛竜を呼び寄せようとしたが、すぐに
やめた。彼の竜では王に追いつけるはずもなかった。
数日後。
帰ってきたカインは異様だった。
「ご子息……」
カインは飛び去った時と同じ、訓練場に戻ってきた。既に集まっていた騎士達を押しのけ、
広場の中心にいるカインの姿を見ると副長は思わず声を漏らした。
ひどい有様だった。たった数日前まで陽気に溢れていた顔は、いまや生気を失った土気色で、
丸みを帯びていた頬は痩せこけて骨が浮き出ている。大きな瞳は落ち窪み、灯火の消えたような
哀しい色に染まっていた。────あの時と同じだ。
最終更新:2007年12月12日 22:53