竜の騎士団 14

 騎士達はうち震えていた。
 ある者は胸に手を当て、ある者は槍を掲げ、またある者は感服の涙を流していた。
 彼らは同じ竜と生きるものとして、幼いカインに対する畏敬の念を隠せなかった。
 そしてこの日、副長の提案と共に、バロン竜騎士団全員の賛をもってある決定が下された。

『バロン竜騎士団団長は不在とする!
 カイン=ハイウィンドが竜騎士となるその時まで!』


 当然ながら前例のないのことであったが、騎士団全員のたっての願いともあり、王もこれを
認めた。彼もまた王である前にひとりの騎士だった。
 また、もちろんこの決定はカインに知らされることはなかった。慢心かあるいは重圧か、その
どちらにしてもカインに与える理由はなかったし、カインならば必ず自ずから相応しい騎士に
なるだろうと誰もが確信していた。
 そのカインだが、このことがあってから彼は少しばかり無口になり、昔ほど感情を外に出さない
ようになった。もっとも彼と親しい人間からしてみれば、中身はちっとも変わってなどいないと
いうことらしかったが。
 それからハイウィンド家はそのまま残された。副長はカインに後見の旨を告げ、自分の邸宅に
移住することもできると話したが、カインは家に残りたいと言った。副長もその方がいいと思った
らしく、カインはまた空っぽの家に帰る日々を送った。それでも彼らはたびたびお互いの邸宅を
行き来したし、カインはすっかり彼を父親として受け入れていた。傍目にも、二人は本当の親子の
ように見えた。
 副長は事実上の団長という地位にありながら、長きにわたって補佐という名目を守り続けた。
彼はことあるごとに団長と言う言葉を口にし、常に自分の上に指揮官がいるように振るまった。
はじめそれはひどく奇妙に見えたが、いつのまにか団員達も見えない指揮官を信頼するように
なっていった。騎士団は不思議な結束で力強く保たれていた。
 そしてカインが竜騎士となったその日、架空の指揮官は現実となったのだ。

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最終更新:2007年12月13日 01:12
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