「……撤退だ」
「は?」
「聞こえただろう、撤退だ。団長も既に場を離れられた、総員退避だ!!」
「はっ! おい、撤退だ!! 全軍撤退!!」
騎士団は素早く陣営を引き上げた。魔物の追撃をかわしながら山道を走り抜け、夜明け前には
全軍が安全な山麓にたどり着くことが出来た。────ただ一人を除いて。
彼は団長を置き去りにしたのだ。
皮肉な事に、結果としてこの時の副長の指示は正しかった。魔物の数は彼らの数十倍にも及び、
飛竜なしに勝てるような相手ではなかった。その場に留まれば、全滅は避けられなかっただろう。
このため彼の言葉が疑われるようなことはなく、団長は不運の死を遂げたとされた。
帰還後すぐに彼らは全軍を率いて引き返してきたが、団長の遺骸も、その槍も、ついに見つから
ないまま失われてしまった。やがて小さなカインが見つけるまで。
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最終更新:2007年12月13日 01:13