「では、大変に申し訳ないのですが私はこれで・・・」
また少しの時間が経ったあと、レナは静かにこう言って再び背を向けた。
確かに助けてもらったバッツに感謝してるし、記憶喪失のガラフは心配である。
が、それよりもっと大事で大切なものがある。レナはその場を立ち去ろうとしていた。
「おい、ホントにひとりでいっちまうのかよ!」
バッツがさっきよりも強くレナを呼び止めようとする。
「ええ、どうしても風の神殿に行かなくてはならないの!」
「風の神殿!」
ガラフが閃いたかのように大きく声を上げた。
「そこに行かなければ!」
「ガラフ、記憶が戻ったのか?」
バッツは驚いたように聞いた。一体なんでこの2人が同じ所へ行く目的があるんだ・・・と。
「いや、そうではない。しかし、風の神殿とやらに行かなくてはならなかったような気がするのじゃ」
ガラフの瞳は鋭い。
「(さっきまでと別人みたいだ・・・)」
そのガラフの変化を感じ取ったバッツは少し表情が硬くなる。
ガラフはレナにゆっくり歩み寄る。
「一緒に行かせてくれないか?」
「で、でも・・・」
レナは予想外の展開に困っていた。
これは自分の問題で、赤の他人、しかも今出逢ったばかりの記憶喪失の老人を巻き込むなんてありえない。
「頼むっ!」
またしても大きな声。ガラフの瞳はもちろん真剣だ。
その瞳はレナに心境の変化をもたらす。
「・・・そうですね・・・。では一緒に行きましょう」
レナは『自分の問題に他人を巻き込みたくない』と同時にやはり『モンスターへの恐怖、不安』があった。
ひとりよりかはふたりの方がいい。そう感じたのである。
自分の父と再開する前に自分の命が失くなっては全くの意味が無いからだ。
そして今、レナは日常に当たり前に父が居るという事をとても尊く想っている。
それだけになんとしても父を助けたい。また逢いたい。『絶対に父は生きている』と、そう想っている。
一緒に付いて行くと言ったガラフにはガラフなりの事情があるのだろう。レナはそう悟った。
バッツ同様レナもガラフの表情の変化に気付いたからである。
とても強い、透き通った瞳。
バッツもレナもガラフの瞳の力にただならぬ何かを感じ取っていたのかもしれない。
「ではバッツさん、本当にありがとうございました、さようなら・・・」
「助けてもらって感謝する。さらばじゃ!」
こうして2人は風の神殿へ向かった。残されたのは自分と、馬鹿でかい岩のみ。
相変わらず風はない。森なのに木が揺れない。
バッツは少し自問自答した。
「(女の子とじいさん・・・大丈夫か?あのまま行かせてよかったのか?)」
心の中を不安が少し襲う。
「(どうする・・・どうする・・・どうする・・・)」
そう心の中で悩みながらも足は相棒のボコの方、つまりこの細道の入り口へ向かっていた。
「(結局あの隕石も謎だな・・・一体なんだったんだ・・・)」
そう悩みながら歩いているといつの間にか目の前に宝箱。そして行き止まり。
「あれっ?」
拍子抜けするバッツ。
そう、どうやらボコの居る場所とは反対方向の道に入ってしまったらしいのだ。
細い道は木々がたくさん生えていて非常に似たような景色が構成されている。
バッツは自問自答と不安な心のまま歩いてた為に、どうやら逆方向に来たのを気付かなかったらしい。
「はぁ・・・」
ため息ひとつ。
宝箱を調べたら『フェニックスの尾』と言う、結構高額なアイテムが手に入った。
「ま、アイテムひとつゲット。迷ったのもありかな・・・」
こうして不安が消えないまま、今度こそボコの居る場所へ戻るべく歩き始めた。
最終更新:2007年12月13日 03:19