一節 闇と霧の邂逅10


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濡れ輝く床に伸びた幻獣の骸が、細かな霧の粒となって掻き消える。出口から差し込む光に、白く浮き上がった靄をかき分け、セシルたちは洞窟を抜けた。
ミスト側の出口は、東西に伸びた谷の端に位置している。左右に迫った峰を見渡し、冷え冷えとした空気を深く吸い込んだ。いくら壮観であろうとも、長く地底に留まるのは、やはり2人の気性に合わない。
「どうやら無事に着けそうだな。
 厭な予感がしていたんだけど」
天を刺す古木の合間、蛇行しながら伸びる道の彼方に、かがり火らしき光が見えている。霧深い谷底の村では、一日中こうして火をともしているのかも知れなかった。
直に目的地を確認し、一息ついたセシルをからかい半分にカインが諌める。
「その油断が危ないのさ。落とすぞ」
「そのときは、ドラゴンに壊されたって事にでもしようか」
唇の端を歪め、左腕に巻きつけた袋を軽く持ち上げるセシル。幻獣の攻撃で背嚢の紐が千切れてしまったため、こうして手で持っていくことにしたのだ。中に入れていたポーションの瓶も、岩場に叩きつけられた際の衝撃で、半分以上が割れてしまった。
片手が塞がってしまうのはできれば避けたい所だったが、下手に修繕しようとしてかえって不安定になるよりも、こちらのほうが良いと判断したのだ。
「フッ。それじゃもう一匹出てくる前に、さっさと行くとしようか」
ミストの村はすぐそこだ。幻獣を退けてからは、魔物が現れる気配もない。任務の成功は疑いないように見えた。
それでいてふたりとも、何故か、得体の知れない不安を抱えている。既に幻獣は倒したというのに、現れる前よりもむしろ危機感が募っていた。過度の緊張に陥らないよう、互いに冗談を言い合いながらも、気を緩めることはない。
だがいくら彼らが己の精神をコントロールしようとも、漠然とした予感は、人知れず明瞭な悪夢へと変貌を開始していた。
形なき霧が凝縮し、鉄をも噛み砕く竜の顎と成ったように。
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