一節 闇と霧の邂逅12


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押し寄せる魔物に気付いた村人たちの悲鳴が届く。
ボムの体が爆散する音が立て続けに空を裂くたび、大気は焼け焦げ、苦しげな唸り声を上げた。
ミスト村の入口でふたりを迎えたのは、村境をなす石柱の列を足場に踊り狂う炎の群れだった。沈みゆく太陽が、誤って堕ちてきたかのような光景だ。
張り巡らされた柵が燃え落ち、代わりに真紅の壁が、村への進入を永遠に阻んでいる。
「……これは!」
せめてもの抵抗のようなカインの叫びは、鉛のように鈍い。
「このために、僕らはここまで……?」
「この村を……焼き払うため……」
声の震えをセシルは自覚した。冷汗が背を濡らす。火傷した指先の痛みも、心中の激情に比べればどうということはなかった。いっそ潰れてしまえとばかりに、強く拳を握る。
そのときだ。村全体を巻き込んで渦巻いた炎の中に、人影のようなものが見えた。
一瞬の迷いもなく、セシルは村中に飛び込んだ。吹き付ける熱風に思わず顔を庇ったところを、強引にカインに引き戻される。
腕を掴まれたまま、ひたすら炎の中を凝視するセシルの前で、その人影はゆっくりと、見せつけるようにゆっくりと、崩れた。
「…………陛下……」
カインが腕を放した。
力なく膝をついたセシルの瞳が、視界を埋めた赤に重なり、ある幻影を映し出す。
決然と炎に消える騎士の背中。その高潔を誰もが称えた、昔日のバロン王の姿を。
かつて実際にこのような光景を目にしたことがある、というわけではない。
しかしバロン王は、セシルが鑑としてきた彼の養父は──もしこの場に居合わせたなら、こうした行動を取るはずだった。
罪もない他国の町から、力ずくで何かを奪うような命令を下したりはしない。
どんな理由があろうとも、村ひとつを丸ごと焼き滅ぼすような真似をするはずがない。
「……何故だ……」
そういう人だった。そういう人なのだ。それなのに。
この惨劇は、何故起きた?
「なぜだぁッ! バロン王ーッ!!」
両の拳を大地に叩きつけて問う。過ぎ去った幻影が、何を答えるはずもなく。
業火に呑み込まれたのは、あるいはセシルが寄せていた、信頼そのものでもあったかもしれない。
迸る慟哭もまた、炎に巻かれ、何処へともなく消え失せた。
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