「ポロム・・でいいのかな?」
館の外で待っていたセシルは、遅れて出て来た少女に慎重に声をかける。
「はい、弟の方はパロムと申します。よろしくお願いしますわ、セシルさん」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
少女の屈託のない笑顔に内心で驚きながら、セシルも緊張を解いて穏やかに笑った。
まだ小さな子供だから、おそらく警戒を解いてもらうには随分と骨を折るだろうと思っていた
のだが、どうやら彼が考えていたよりも、彼女はずっと成熟した心の持ち主らしい。
「さっそくだけど準備もあるから、道具屋でもあれば案内してもらえるかな?」
「お任せください、こちらです」
「あ、ところで」
「なんでしょう?」
「パロムの方はどこにいったのかな。飛び出していったっきりだけど」
「セシルさんの真後ろにいますわ」
驚いて振り向くと、パロムがこそこそとセシルの背後ににじり寄っていた。
後ろから驚かそうとでも思っていたのだろうか、企みが知れてパロムは悪態をつきだした。
「なんだよー! 黙ってろよな!」
「あんたいい加減にしなさいよ、遊びにいくんじゃないんですからね」
「はー、つまんねえなぁ。よい子ちゃんは」
「パロム!」
「まぁまぁ・・」
牙を向き合う二人をなだめながら、セシルは息をついた。
やはりどうあっても断るべきだったろうか・・。
これからずっとこんな調子だと思うと、頭が痛くなる。
日はまだ昇りきってもいなかったが、セシルの気分はとっぷりと沈みかけていた。
「ま、ひとつよろしくなあんちゃん!」
ぽんぽんと鎧を叩くパロムの小さな手も、いやに重たく感じた。
最終更新:2007年12月13日 04:45