二節 試練26


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 静まり返った街路を、一人の少女が走り抜ける。いや、少女という呼称は相応しくないかも
しれない。長い髪が走り流れる横顔は、美しくも、どこか硝子のように儚く、それでいて人を惹き
つけてやまない、すっかり成熟を遂げた女性のそれであった。だが今、彼女の横顔は溢れ出る涙で
濡れていた。
 涙の理由は彼女にも分からなかった。交錯する思いが胸の内でぶつかり合い、弾け、尖った
欠片となって不安定な心に突き刺さった。
 いっとき、彼女は振り向き、もうとうに見えなくなった墓地の方向を見やる。それなのに、未だ
悲しそうな視線の名残がまとわりついているようで、それが彼女をまた夜道に追い立てる。

 ────お前とて、変わらねばならぬのだ────

 遠く、どこかで犬が切なげに吠える声が轟いていた。



 セシルが館を出てまもなくのこと。

「………長老」
「……ジェシーか」
 ふっと現れた気配に、長老は振り返らずに言葉を返す。
「先ほどは………申し訳ありませんでした……」
「よい。わしも無理強いをしすぎたのだ。そなたには……まだ少し早かったようじゃな」
 謝罪とも、失望ともつかぬ彼の嘆息に、ジェシーは唇を噛む。
 そして、とうとう抱き続けていた疑問をぶつけた。
「……長老は、なぜあの暗黒騎士を信用されるのです」
 どうして私をわざわざ引き止めたのか。
 私がどれだけあの男を憎んでいるか知っていながら。
 誰よりも悲しみに耽っていたこの人だからこそ、ジェシーにはそれが歯がゆかった。

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