「セシルさん? 急がないと、また炎が……」
長老の魔法は、氷の魔法に反応して消えるものの、すぐにまた元に戻る仕組みになっている。
だが、それも彼の耳にはまったく入っていない様子だった。
「どうか…されましたか?」
二人の顔に困惑の色が浮かぶ。
ようやく炎から目を離した彼は、双子の顔をまじまじと見つめた。
「………いや、なんでもないさ。ありがとうパロム。さぁ、先を急ごう」
キョトンとする二人を尻目に、セシルはまた歩を踏み出し始めた。
砂利を蹴立てながら山路を進むこと、はや数刻。森を抜けたときには東に佇んでいた陽も、
すっかり空の頂に落ち着き、彼らの足が荒い岩場に慣れだした頃だった。
「あんちゃ~ん……もうオイラ歩けねえよ」
ようやく三合目の台地にたどり着いたところで、途中ずっと不平をこぼし通しであったパロムが
とうとう音を上げた。
「バカッ。まだ、半分ぐらいしか、登って……ないじゃ、ないの…!」
いつものように弟をいさめようとはするものの、ポロムの息も途切れ途切れだ。
無理もない。ただでさえ険しい道を、魔物を相手にしながら登っているのだし、第一二人とも
まだ五つに過ぎない子供なのだから。むしろよくここまで保っているというべきだろう。
(……それに)
大きく息を吸い込む。
麓から感じていたが、この山の空気はどうも特殊なようだ。どういうわけか、温度というものが
ひどく曖昧なのだ。喉を焦がすような暑さ、それでいて、手足の先が痺れるような冷気。おまけに
空気がひどく重苦しく、そよ風ほどの流れもない。呼吸をするのも一苦労なのだ。ちょうど目に
見えない液体の中を歩いているような、そんな奇妙な感覚だった。
やはり、試練の道とやらは容易ではないらしい。
最終更新:2007年12月13日 05:02