「だめだ、もう無理。オイラこっから一歩も動かないぞ」
「パロム! 置いてくわよ!」
また、相変わらずなやり取りを交わしている。セシルは顔をほころばせかけながら、しかし
努めて真面目な風を装った。
「いや、なんだか僕も疲れたよポロム。あそこの登りきったところで少し休まないか?」
「えっ……そ、そうですか。セシルさんがそうおっしゃるなら……」
「ヒャッホー、流石あんちゃん! 話が分かるぜ」
言うが早いが、へたりこんでいたパロムは飛ぶように起き上がると、いち早く丘の上に向かって
駆け出してゆく。
「動かないって言ったくせに!」と呆れるポロムも、どこか安堵した様子が見える。
「あまり無理をしない方がいいよ」
そう言いかけて、セシルは慌てて口をつぐんだ。せっかく彼女の気も緩みかけているのに、
そんなことを言えばまた意固地になって「先を急ぐべきです」などと言いだすかもしれない。
ポロムには、無理をしているというか、どこか背伸びをし過ぎているような嫌いがあることを、
セシルも短い付き合いのうちに学んでいた。街で二人の装備を整えた時にも、大はしゃぎで商品を
漁るパロムに対して、ポロムの方は「私は未熟者ですから」と、頑として受け付けなかった。
パロムを見習えとは決して言わないが、二人合わせて一人の子供だったら、とても釣り合いの
とれた子だったろうにな。セシルの口元から苦笑いがこぼれる。ポロムを労うように小さな肩を
叩くと、彼らも丘に向かって歩き出した。
と、さっき飛び出していったばかりのパロムが、今度はなにやら慌てた様子で引き返してきた。
「あんちゃん、誰かいるぜ!」
最終更新:2007年12月13日 05:02