二節 砂塵1


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「出やがった!」
足元がぐらついた、と思った瞬間、鋭い二つの切先が砂の下から現れる。高々と吹き上がった砂煙が、陽光を受けて金色に染まった。
不意打ちを食らった交易商たちは、経験を積んだ者から順に、荷車を捨ててその場を離れようとする。
輝く靄の中に浮かび上がる、大蛇とよく似た長い影。巨大な甲虫ハンドレッグが、獲物の気配を察し巣から這い出てきたのだ。
遥か頭上に鎌首をもたげた捕食者が、足をもつれさせながら逃げ惑う、若い商人に踊りかかる。
湾曲した顎が、若者の背を捉える寸前。セシルは虫の真下にもぐりこみ、その腹に深々と刃を差し込んだ。
大きくのけぞるハンドレッグ。予想を越える力に、危うく剣を持っていかれそうになる。
力任せに引き抜くと、体節の継ぎ目を狙って再び剣を突き入れた。同時に、刀身に込めた暗黒の力を解き放つ。
勝負はついた。
でたらめに宙をかく無数の足を避け、セシルはハンドレッグの側を離れた。ほどなくして倒れた虫が、盛大な砂埃を巻き起こす。
「……すげえ、やったぜ!」
ビッグスの声を契機に、一目散に逃げた商人たちが、おそるおそる背後を振り返った。
なおも激しく身をよじり、虚しく地面に尾を打ち付ける大百足の姿を見て、皆の間に歓声が広がる。
犠牲者が出なかったことを喜ぶのはもちろんだが、戻った商人たちが、痙攣を続けるハンドレッグに取り付いたため、セシルは呆気に取られた。
思わず、横のビッグスを振り返る。20年以上キャラバンを率いてきたという男は、満面の笑みを浮かべ、セシルの労をねぎらった。
彼曰く、これも砂漠の恵みの一部──市に持ち込めば、いい値がつくのだそうだ。
「気ぃつけろ! まだ動いてるぞ!
 こらそこ! しっかりラクダ見てろ!」
ベテランの商人たちから、活気に満ちた指示が飛ぶ。
甲皮や腱は天幕に、毒は薬の材料に。巨体は見る間に解体され、荷車に収まってしまった。
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