FF7AC The strange children3

「…治してあげるよ…」
苦痛のあまり思考がばらばらになりそうなデンゼルの耳に、その声はやけに甘く、はっきりと聞こえる。
デンゼルは目を閉じていた事に気づき、開いた。
ちょうど、カダージュが湖のなかに歩いていき、その中央の辺りで立ち止まったところだった。
カダージュは湖から両手で水をすくうと、顔が見えなくなるほど体を反らし、飲んだ。
「僕に続いて」
囁く声が、頭の中でガンガンと響く。額の痛みは相変わらずだ。
なんでもいい。この苦痛を和らげられるなら、無くせるなら、どんな救いの手でもいい。
デンゼルは半ば這うように、湖へと進んでいった。

湖は、黒い影で染められている。
比喩ではない。カダージュが足を踏み入れた途端、それまで清らかだった水が、
どす黒くてどろどろとした影のようなもので汚染されたのだ。
マリンは身動きも取れず、目の前の光景を見ていた。
集められた子供たちが苦しげな声をあげて倒れたかと思うと、今度は夢遊病にかかったように、
一斉に湖へと入っていったのだ。
しかし、彼女が見たことがあるなら、もっと近い例えを見つけられただろう。
虚ろな目。熱に浮かされたような表情。ふらついてぎこちない挙動。
それは、2年前の災厄の一つ、セフィロスコピーのリユニオンに、驚くほど似ていた。
見るからに汚らしい湖に、子供たちがひとり、またひとりと足を踏み入れ、カダージュの動作を真似ていく。
何も出来ずにその光景を見届けていた時、ある姿を見つけ、マリンは仰天した。
デンゼルがいる。
彼は目と鼻の先にいるマリンが全く見えていないようで、一心不乱に黒い湖へ向かっている。
「デンゼル…」
呼びかけてみる。何の反応も示さない。マリンは目に涙が浮かぶのを感じた。
「デンゼル!」
今度は強く呼びかける。それでも、彼女の声はデンゼルの耳には入らない。
マリンの隣で、カダージュが微かに笑った。
デンゼルはそのまま湖の中へ入って行き、他の子供たちと全く同じ動作で。
湖の黒い水を飲んだ。

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最終更新:2007年12月13日 07:14
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