プルルルルルルル。プルルルルルルル。
機械的な呼出音が連続して耳に流れ込んでくるとき、風が肌寒いと思った。
正直に言って、怖かった。いまさら連絡をよこして、どんな反応をされるかと思うと怖かった。
だが、もう逃げるわけにはいかない。何を今更、などという言い訳で逃げることは、もうできないのだ。
クラウドはそう自分に言い聞かせ、相手が電話に出るのをただ待った。
だが、相手はなかなか応じなかった。
1分以上もコールしているのに、電話に出る気配がまるでない。
2分がたち、諦めかけたそのとき、クラウドの耳に雷のような怒声が突進してきた。
「っせーっつってんだろ!!誰だテメエこんな夜中に!!!」
「…悪いな。そっちはまだ夜だったのか」
クラウドは自分のその一言に度肝を抜かれた。ごく自然に、本当に自然に言葉が出てきたのだ。さっきまでの緊張が嘘のように。
「…ん?その声、どっかで…」「俺だよ。シド。クラウドだ」
電話の向こうで、シド・ハイウィンドの息が止まったのがわかった。
「え、おま、な、クラウ……お前か!?」
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
オーバーだが自然体の、いかにも彼らしい反応にクラウドは少し苦笑した。笑うことができた。
『お、おう、すまねえ。なんせいきなり…」
シドはとりあえず落ち着こうと息を吐いたが、次の瞬間、また声が大きくなった。「って、なんで俺様があやまんなくちゃならねえ!元はといえば…」
「ああ。何年も電話しなかった俺のせいだ。悪かったな」
こみ上げてきた笑いをなんとか堪えながらクラウドが言うと、シドは今度こそ落ち着きを取り戻し、「…そんで?」と聞いてきた。
「そんで、何年も電話しなかったおめえが、今になってどういう風の吹き回しだ?」
クラウドの顔から笑いが消えた。自然に話せていた口も急に塞がった。
この2年間、クラウドはずっとこれが言えなかった。機会は何度でもあったのに。今までずっとその機会を逃してきた。いや、逃げてきた。
でも、俺はもう逃げない。逃げるわけにはいかない。だから、言うんだ。
「助けてくれ。みんなの助けがいるんだ」
なによりも先に言うべきだった、この一言を。
最終更新:2007年12月13日 07:31