クラウドはPHSを耳から離し、深くため息をついた。
結局、彼が恐れていたようなことは何もなかった。それどころか、みんなは、少なくともシドは待っていてくれたのだ。2年ものあいだ、ずっと。ずっとクラウドの答えを待っていてくれたのだった。今も2年前と変わらず、クラウドを支え続けていてくれたのだ。
にもかかわらず、ありもしないことを恐れてずっと彼らから逃げてきた自分。
なんだか、バカみたいだ。
いや、「みたいだ」は要らないか。クラウドは思った。俺は正真正銘のバカだ。
クラウドは笑い出した。思えばさっきから笑いっぱなしだったが、今度のは一際大きい、会心の笑い声だった。
ひとしきり笑った後、マリンが怪訝そうな目で見ているのに気づいて、なんとか息をつく。
そして、手元のPHSを見た。
これがあるのをすっかり忘れていた。使うのをやめて2年になるが、その機能はまだ失われていなかった。
今まで使っていた携帯を失っても、まだこれがあることを思い出せてよかった。まだ仲間たちと連絡が取れることを。
このPHSの存在と、仲間との絆を忘れたままエッジに向かっていたら、忘らるる都の二の舞を演じるだけだっただろう。
今度はそうはならないと、クラウドは確信していた。なぜなら、今度はみんなの助けを得られるから。
ここで、先ほどのツォンの言葉がひっかかった。
『ただ、伝えておいたほうがいいと思ってな』
………………。
いや、考えすぎだ。
クラウドはそう割り切り、再びPHSを手作業でダイヤルする。番号はすべて暗記していた。
クラウドが変わった。
型の古い携帯で誰かと話し、大声で笑うクラウドを見て、マリンはそう思った。
そこにいたのは、さっきまでのクラウドとは別人だった。紅いマントの人と話しているときのウジウジした彼とは、一目見ただけでも印象がまったく違うのだ。
カダージュたちが倒れたわけでもなければ、彼らがエッジへ向かっているという事実が変わったわけでもない。それでも、マリンはその背中を見ているだけで、妙な安心感を覚えた。
そしてマリンが気づいたのも、このときだった。
変わったんじゃない。元に戻ったんだと。
「この」クラウドは、紛れもなく、2年前に一緒に暮らしていたときの、あの頼もしいクラウドだった。
重病を抱え、独り逃げるようにしてマリンたちから離れたクラウドは、いま帰ってきたのだ。
「ああ、ユフィか?俺だ。クラウドだ………シドと同じ反応だな、お前」
また誰かと話しだすクラウドの後ろ姿は、ひどく楽しそうだった。
最終更新:2007年12月13日 07:32