三節 不和の旋律4


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金庫を失くした男の話は、意外と簡単に聞くことができた。
彼は前回の雨季の終わりに間に合ったため、洞窟の入り口まで船で移動し──本当にぎりぎりの時
期だったために、金庫を持ち帰る策を練ることができず、水が引く前に立ち去る羽目になってしま
った。
「……それで?」
水鳥の羽毛をつめたクッションに体を預け、ギルバートは会話の続きを促した。
まだ起き上がれるほどではないが、先日のように急に咳き込むこともなく、顔色も幾分明るくなって
いる。
時折遠くを見るような、心ここにあらずといった表情を見せはするものの、彼の容態が持ち直してい
ることにセシルは安堵した。
「……駄目だった。甘く見てたよ」
雨季まで待て、と繰り返すロドニーを説得して船を出してもらい、ダークエルフの島へ渡るまで
はよかった。しかし、いざ地上を進もうとしたときの困難はセシルの想像をはるかに超えていた。
泥と朽ち葉が交互に層をなした地面はぬかるんでひどく歩き難く、多数のモンスターが衛兵のごとく
行き来する。
双頭の大蛇ツインスネーク、古木に潜む悪霊ウッドアイズ、有毒の花粉を振りまくデスビューティー
、子牛ほどもある全身に針を植えたヘルニードル──初めて遭遇する魔物たちはみな手ごわく、セシ
ルたちは見る間に消耗して行った。
特にテラの疲労は激しかった。回復魔法はなるべくセシルが受け持ったが、それも焼け石に水。しかたなく、日の高いうちにテントを張った。
それすらも、休むための乾いた地面を探すところからはじめなければならない有様だった。
「みんな無事でよかった」
「……本当に」
ギルバートの慰めに、セシルは心から肯いた。
あの調子では、磁力の洞窟に着く前に、手持ちの物資が尽きるのは避けられない。だからセシルは、ローザから遠ざかる道を、自分から選択した。
仲間は何も言わなかった。
みなセシルより年上で、それぞれ得意分野は異なるが、他人を指導する経験を十分に積んでいる。
そんな彼らが、セシルがリーダーとして正しい判断を下すまで、黙って付き合ってくれていた。
そこに込められていただろう期待と忍耐に、セシルが気づいたのは、トロイアの町に帰りついたあとのことだった。
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