三節 不和の旋律8

セシルは宿に戻り、ヒソヒ草を皆に見せた。
「ふ~む、これはまた、面白いものを貰ってきたのう」
シドが身を乗り出し、セシルから受け取った品物をしげしげと見回す。
「ダムシアン王家には、ホバー船のような古の不思議な力を持つ宝がいくつか伝わっていると聞く。
 この草も、そうした宝物のひとつなのだろうか」
「かもしれない」
やはり視線はヒソヒ草に向けたまま、セシルとヤンの会話は半ば、輪に加わろうとしない老人に向けられていた。
ギルバートの名を出すまで、明らかにテラもこの珍品に興味をそそられていた。それが今は卓にも着かず、瞑想と称して毛氈の上で胡坐をかいている。
思い切って、セシルは彼に声をかけてみたが。
「食堂に行っておる」
会話すら拒否して階下に去る足音に、セシルは密かに溜息をついた。
「頑固だな」
一人娘を失って悲しむのはわかる。だが本当に憎むべきはゴルベーザであり、あそこまでギルバートが責められる謂れは無い。
セシルはそのように思っていたのだが、シドとヤンの反応は冷ややかだった。
「仕方あるまい。事情が事情だ」
「こればっかりはな。
 一生許せなんでも無理はないわい」
シドはともかく、ヤンはセシルと同様、あるいはそれ以上にギルバートの人柄を評価していたのではないのか。
セシルの問いかけに、ヤンは首を横に振った。
「いかにも。だが、それとこれとは話が別だ。
 男子たるもの、妻を迎えんとするならば、まず己が一人前であることを周囲に示すのが筋というもの。まして、多少の反対で挫けるようでは話にならん。
 思うにテラ殿も、最後にはギルバート殿を娘婿として受け入れるのに吝かではないのだろう。
 しかしギルバート殿は選択を誤ってしまった。そして、取り返しのつかぬ結果を生じてしまった。
 そうではないか?」
いつに無く饒舌なヤンの傍らで、シドが熱心に頷いている。ふたりの間に漂う連帯感を目にして、セシルは食い下がるのをやめた。
この件に関しては、独り身である自分が一番、核心から遠いところにいるらしい。

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最終更新:2007年12月14日 03:43
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