四節 Eternal Melody5


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

初めて目にする異国の男は、エリスには、狂っているとしか思えなかった。
寝台の上に上体を起こし、手にした骨細工のようなものに向かって、一人でつぶやいている。
俯いた横顔を髪が隠しているので、顔はよくわからない。ただ、大きな傷跡のようなものは見えた。
今にも命が危ういような、差し迫った気配はない。
「セシル……ヤン……
 返事を……」
声をかけるべきか、誰かに報告すべきか、素知らぬ顔で立ち去るか。迷いながら物陰で中を窺ううち、男の様子に変化が現れた。
「セシル……聞こえるか!?
 気づいてくれ、僕だ、ギルバートだ!」
呼びかける言葉に確信が宿る。耳を澄まして返事を待つ。応答はない。人の声では。
代わりに聞こえてきたのは、恐ろしげな唸り声。硬い物が打ち合う響き。柔らかく重たい何かが、どさり、と地面に落ちる音。
それらは全て、客人──ギルバートが手にした、奇妙な品から発せられていた。
ヒソヒ草、という名前をエリスは知らない。ただ、目の前の男が狂ってなどいなかったことを理解した。
厚い布を通したような、くぐもった物音が、遠く離れた磁力の洞窟での出来事を、この場に伝えているのだ。
戦いの最中にあると知って、ギルバートは一時呼びかけを中止した。息を詰めて、手の中のヒソヒ草が届ける情報に耳を傾けている。
やがて雷鳴のような鋭い音を最後に、争いあう音は止み、人の話し声が取って代わった。
聞き取り辛いが、どうやら休息を取ろうとしているようだ。
「セシル……!」
三度の呼びかけで、ヒソヒ草の向こう側から音が消える。
「ギルバートだ。ヒソヒ草を通して声を送っている。
 聞こえていたら、返事をしてくれ……」
今度ははっきりと反応があった。
荷物をかき回すような、ごそごそという音がしばらく続き、突然、音が鮮明になる。
『ギルバート!?
 本当にギルバートなのか!?』
「……ああ。僕だよ、セシル」
ギルバートの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。こっそりその様子を見ていたエリスも、なぜか自分のことのように嬉しかった。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。