傷ついた体を引きずり、セシルたちは魔法陣の部屋まで退却した。
幸いにして、テラもシドも息はあった。またダークエルフの追撃もなかった。ヤンによれば、ただ傲然と敗走する一行を見下ろしていたという。
「とにかく、今は体力を回復させることだ」
頑強なモンク僧も今は精根尽き果てたか、寝袋に身を横たえ、憔悴した顔を天井へ向けている。
ありったけのポーションと魔法で、傷は何とか塞がった。必要なのは、疲労を追い出す時間だ。
そしてその間に、ダークエルフの魔力を打ち破る手段を見つけなければならない。
あまり猶予はなかった。ここで時間をとりすぎると、黒チョコボのところに残してきた、魔除けの効果が切れてしまう。
地上まで戻る道のりも考えて、テラの魔力の回復が、ぎりぎり間に合うかどうかだった。
「忌々しいが、魔法は効果が薄いようじゃ」
「近づくことさえ出来れば、この爪で喉を掻き切ってやるものを!」
「じゃがあやつ、ワシが殴りかかったら面妖な術で避けおったぞ。
木槌が……」
「隙を突いて、一気に仕掛ければなんとか……」
それぞれに先の戦闘を思い返し、必死で弱点を探す。しかし、具体的な策は一向に出てこなかった。
なす術もない敗北に、弱気になってしまったのだろうか。
「剣が……剣さえ使えれば……!」
とうとう、セシルはその思いを口にしてしまった。
この洞窟に満ちた磁力が消えない以上、仮にこの場に剣があったとしても、クリスタルルームまで持っていくことさえできない。
そもそも、金気を帯びた品はすべて、トロイアの町に置いてきてしまったのだ。
無い物ねだりに逃げようとした己の弱さに、遅まきながら怒りがこみ上げてくる。
『ダークエルフ……妖精……
もしかしたら!』
「何か思いついたのか!?」
煮詰まった空気に、一陣の風を吹き込むように。ヒソヒ草を通して参加しているギルバートが、高い声を上げた。
最終更新:2007年12月14日 03:54