四節 Eternal Melody16


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ジョグは酒場を追い出され、河岸で石を投げて時間をつぶしていた。
彼はトロイアの住人ではない。かつては両親と共に、バロンの城下町で暮らしていた。
しかしジョグの父は、いち早く不穏な空気を嗅ぎ取り、店を畳み国を出た。赤い翼の、ミシディアへの出兵が発表されたころの話である。
やや遅れて、同じように国を捨ててきた者が何人か流れてきた。
彼らが語るバロンの情勢は、酷くなる一方だった。聞くたびに父は、真っ先に逃げ出した自分の勘の鋭さと、避難先にこの国を選んだ判断力を自慢した.
──まあそれはいい。ジョグが許せないのは、叔母のお産の手伝いに里帰りしていた母親を、父が待とうとしなかったことだ。
店を売った金を酒場女にばら撒いて、妻を置き去りにしてきたと得意げに話すあの男は、たぶん自棄を起こしている。
最近ジョグは、父親の顔を見るのも嫌になっていた。相手もそれは同じらしく、ここ数日、目を合わせた覚えもない。
石を投げるのにも飽きて、ジョグは川上へ向けて歩き出した。
じっとりと湿った空気がうっとうしいが、風があるだけ幾分かましだ。そろそろ日が翳りだす時刻だというのに、一向に涼しくならない。
しばらくして、中州の近くに生け簀を見つけた。網の中で、魚が何匹か跳ねている。
辺りに誰もいないことを確かめると、ジョグは川面から突き出た杭を蹴り、生け簀を壊した。
逃げ損ねた魚を網ごと掴んで、川とは逆の方向に放り投げる。
いくらか気が晴れたところで、さらに進んでいくと、風に乗って女の声が聞こえてきた。
前方を見上げると、お仕着せ姿の娘が川沿いの土手に座り込んでいる。
ジョグとそう変わらない年に見えた。買ったばかりなのか、きらきらと光るビーズ細工を膝の上に広げ、鼻歌交じりに検分している。
かわいい。
単純な少年はたちまち機嫌を直し、指笛を吹いた。こちらに気づいた少女へと笑いかけ、目配せを送る。
少女は一瞬驚いた顔をしたあと、手早く荷物をまとめ、ジョグから離れるように駆け出した。揺れる背中を見送りながら、ジョグは彼女の勤め先はどこかと思案をめぐらせる。
知らぬうちに、その鼻先からも歌がこぼれだしていた。
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