二節 再開の調べ16

「何用ですか、お客人」
夕立を思わせる残響が収まると、神官は冠を脱いで、立ち尽くしていたセシルを見据えた。
「お立ちになられますか、バロンの将軍よ」
セシルたちの方を向いたまま、手で合図を送る。十人ばかりの巫女たちは、神官の手から冠と錫杖を受け取ると、斎域を示す枝を抜き取って奥の回廊に退いた。
さっき会ったときとは違い、化粧をしているせいだろうか。ひとり残った神官の表情は、ずいぶんと険しく見える。
「いや、違うけど……」
「そうですか。では、船を動かす際には、どうぞお声をいただけるようお願いします」
ようやくセシルは質問の意図を理解した。離陸の妨げにならないようにということだろう。言われずとも、そんな危険な真似をするつもりはないが。
「承知した」
「ありがとうございます」
こころなしか、表情から険が取れた気もするが、神官の口調は素気ない。
「そもそもあんたがた、ここでいったい何をしとったんじゃ?」
「御覧いただいたとおりです」
シドの質問を受け、神官の、深い青で縁取られた視線がエンタープライズに向かう。
「精霊たちがあまりに騒ぐので、お鎮まりいただくために舞を奉じておりました。
 あるべきものが無いせいで、人も森も、皆浮き足立っているのです」
騒ぎの原因を、彼女は口にしない。しかし精霊とやらの気配はともかく、この巨大な来訪者が理由であることは明らかだった。
いくつもの苦難を切り抜けて、ようやく取り戻した翼。セシルにとってはどこまでも頼もしく、懐かしささえ誘う姿だ。
けれどトロイアの人々の目には、異様な怪物のように見えるのかもしれない。
柱の影から、窓の奥から、セシルに浴びせられる視線が不安で満ちているように。

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最終更新:2007年12月14日 04:22
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