一節 刻む足跡22


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──それは、セシルが物心つく前から、自らに禁じていた呼びかけだった。
余計な波風を立てぬよう、他ならぬ王自身に迷惑をかけぬよう、絶対に人前で口にしてはならないと、心の中でさえ使うことを避けていた。


『……よい。
 では最後の命令だ。
 顔を上げよ、セシル』
「仰せのままに」
立ち上がり、改めて通路の奥に目を凝らす。いつしか風は止んでいて、禁域を守る闇が少しずつ視線を吸い込む。
広かった。誰もいない通路は、本当に広かった。
「……いってしまわれたの」
「僕らも行かないと」
副長に別れを告げ、鼻を啜り上げるシドに先んじて、セシルは地上へ続く階段に足をかけた。
胸に焼きついた通路の広さが、セシルの覚悟の証だった。二度と目を逸らさない、その自信に形ができた。
それこそが陛下の、王の、バロンの─────


(行って参ります。父上)


エンタープライズの発進は奇妙なほど静かだった。誰もが己の成すべき事を知り、すべての動きがよどみなくかみ合って、まるで全員でひとつの生き物のような連帯感で結ばれている。
あわただしい出発を見送る、ほとんど偶然に居合わせた人々までもが、その流れに飲み込まれていた。
会話らしい会話もなく、不思議な平穏のうちに作業が進められていく。
やがてプロペラが風を切り、巨大な船体が宙に浮いた。

セシルは再び、故郷の城を旅立った。
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