四節 これから4


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「セシル様……」
年齢は四十近くだろうか、呆然と彼の名を呼んだ女性の顔を、セシルはまじまじと見つめた。小豆色のエプロンドレスと、愛嬌のある丸い輪郭にはぼんやりとだが覚えがある。
「もしかして、ファレルの……?」
「ああ、やはり、お戻りになられたんですね……!」
セシルの返答に、女性は目尻に涙を浮かべ、何度もうなずいた。
「セシル様が旅立たれてからというもの、陛下はますます厳しくなられて……
 少しでも逆らった人は、片っ端から捕えられてしまうのです。
 奥様は一日中バラの手入ればかりなされて、本当に、もう、どうしていいか……」
「シャーロット」
数年ぶりの再会だったが、ひとたび記憶が刺激されれば、女性の名前を思い出すのは簡単だった。ただセシルが覚えている彼女はいつも陽気で、こんな弱音など吐いたことはない。
……主人が招いた客を相手に、愚痴を聞かせる使用人など何処を探しても居なかろうが。
「も、申し訳ありません」
セシルの呼びかけを制止と捉えたのか、シャーロットは口を噤み、半分だけ中身の入った水瓶を所在なげに抱えなおした。誤解だが、セシルも特に訂正はしない。
話を切り上げ、城に向かおうとしてセシルは異変に気がついた。
広場の端から、ざわめきが迫ってくる。草食獣の群れが互いに警告しあうように、人から人へと緊張が伝播し、空気の色を塗り替えた。
潮が引くように群集が道をあけ、異変の源とセシルたちの間が一直線に結ばれる。人垣が誘う視線の先には、ファブールのモンク僧。それも旧知の顔である。
「ヤンじゃないか、無事だったのか!」
続けざまの思わぬ再会に、セシルの顔が綻ぶ。しかしそれは、ヤンの険しすぎる表情と、彼に付き従う近衛兵の姿が目に入るまでの、ほんのわずかな間に過ぎなかった。
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