ティナが目を開けると、そこはベッドの上だった。
視線を巡らせると、傍らにはロックがスツールに足を投げ出し、
両手を頭の後ろで組んだ姿勢で天井をぼんやりと眺めている。
その横顔を見つめながら、ティナはバナンの言葉を心の中で反芻していた。
自分が、彼らの希望になる……。
希望という言葉はあまりにも漠然としすぎていて、
考えてみても、霧のようにもやもやと捉えどころが無い。
今はただ、あと一歩踏み出す為の勇気が欲しい、ティナは考えていた。
「ロックは…どうしてリターナーに入ったの?」
いきなり声をかけられて少し驚いたようだったが、
ロックはティナに向き直った。 自分の右手をティナの額に起き、
次に自分の額に手をやる。そしてほっと小さく息を吐いた。
「熱は無いみたいだな。頭痛はもう大丈夫なのか?」
「うん。少し眠ったせいで気分は良いみたい」
ティナが上半身を起こす。ロックは右手で軽く頭をかいた。
「で、なんだっけ。俺がリターナーに入った理由?」
ティナが頷くと、ロックは自分の膝に視線を落とし、
両の拳をぐっと握り、やっと口を開いた。
「俺は大事な人を帝国に奪われた。
俺が帝国を憎むようになったのはそれからだ。
帝国がこのままのさばれば、俺のような人間が増える一方だ。だからさ」
「そう…大事な人の為なのね」
一瞬、ティナは遠くを見るような目になった。
「でも、私にはそんな人はいないわ…」
ロックは慌てた様子でティナの手を握った。
「そんな事はない。逆に君を大事に思ってくれる人もいるかもしれない。
その人のためにも…」
慰めとも本気ともつかないロックの言葉に、
ティナは首を傾げながら立ち上がった。
最終更新:2008年02月01日 09:40