三節 光を求めて24


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ダムシアン王位継承第1王子、ギルバート・クリス・フォン・ミューアは、争いごとを好まない青年であった。
 悲哀に満ちた美しい容姿を持ち、その容姿のように優しい性格を持っていた。
 身分や金銭といった俗世を嫌い、剣の代わりに竪琴を愛し、呪文の代わりに詩を口ずさむ、そのような青年だった。

 いま、彼の周りには、焼け焦げた破片となった城壁がそこら中にあって、もの言わぬ死体となったヒトの姿がそこら中にある。
 その空間の中ただひとり、ただひとりだけ、ギルバートは立って、居た。
 自身を愛し、守ってくれた家族。自身を慕い、守ってくれた国民。血溜まりの中のすべてを前にして、その表情に感情の色はなかった。
 ただ立ちつくすだけ。
 なぜこんなことになったのか。こんなことになって、自分はこれからどうすればいいのか。そもそもどのような思考をすればいいのか。
 絶望することも億劫なくらいに、体がだるくて重たくて。だからただ、立っているだけ。ギルバートはぼんやりと、静寂の中に立っていた。

 ――――アンナっ!

 老人の声が静寂を破る。
 ――――アンナ?
 空間に響いたその名前を耳にして、ギルバートの瞳が揺らぎ、仄かに意志が宿る。
 アンナ。その名が指すのはひとりの女性。この平間の中央で胸から血を流して倒れているひとりの女性。そうだ、アンナ。彼女は、僕を庇って―――― 
 ギルバートはアンナの元へ、のろのろと歩みを進めた。


 テラの視界に映ったのは、すでに致命傷を負ってしまっている愛しい娘。そしてこの状況でただひとりだけ、生きている男の姿。
「貴様、あのときの吟遊詩人!」
 それを認識した瞬間、テラの憤怒が爆発した。
 どうしてもこの手で救いたかった娘はすでに倒れ伏していて、娘を奪った憎い男だけが、今ものうのうと二の足で立っている!
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