終点

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終点」(2009/02/28 (土) 11:06:57) の最新版変更点

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***終点 ---- それは、悪魔の冠に呪われた、魔女の娘のお話。 ---- あぁ……。 知っている。 長い長い時間の中で、私は幾度もこの空虚な気持ちを覚えた。 今回もそうなのだろうと、思っていた。 私は始めに、軽い気持ちで悪魔の冠を作ったのだと思う。 次第にそれがどれだけ悲惨な状況を生むのかも理解せず、私は後悔した。 初めて私の身体が悪魔の冠に呪われた時、二度と呪いは解けないと思った。 しかし、それは違った。 悪魔の冠が壊れると、呪いは自然と解けていったのだ。 私は素直に喜んだ。 自分が始めたことなのだから、上手く終わって当然だと思っていた。 だが、悪魔の冠は復活した。 あのボロスという奴が死なない限り、何度でも……。 喜びは束の間だった。 そこから、私の過ちは肥大していった。 悪魔の冠が復活すれば、呪いもまた然り。 呪われ、開放され、それを繰り返す。 次第に私は、『呪いとは一時停止しているに過ぎない』。 そう、感じるようになっていた。 私に掛った呪いとは、悪魔の冠が壊れるたびに静止し、復活するたびに蠢き出す恐怖のようなものだった。 その呪いが静止して、復活する合間に訪れる時間。 私は何とも言い切れないような、空虚な気持ちを抱く。 全てが空虚に感じる瞬間、終息の安堵に落ち着き、始まりの恐怖に怯えた。 今回もまた悪魔の冠が壊された。 なかなか悪意に満ちた人間が手にしていたのだが、増幅する力と欲望に負けて朽ちた。 今回は地上の兵隊の生き残りが破壊した。 狂った姿に変貌していた私に残った少ない理性が、それを見ていた。 助けて欲しいなどと言ってはいないが、救われたという感情が心を満たしていた。 あの人間が悪魔の冠を所持している間は、何度も暴力にあった。 逆らうことも出来ず、私は従わなければいけなかった。 それは、もう、日常茶飯事なのだからと、受け入れることしか出来なかった。 長い時間、同じ状況を繰り返していたのだから、それが普通だった。 こんなおかしな状況を打破しようと、一度も思わなかったわけではない。 何度も何度も、逆らおうとした。 そう思うだけ。そう心の中で思うだけで、私は服従した。 呪いとはそういうものなのだ。 受け入れ、服従し、幾人も殺してしまった。 罪悪感が濁り始めた辺りから、私はおかしくなってしまったのだろうか。 悪魔の冠のせいだから。 そう言い聞かせることだけが、私に出来る言い訳だったのかも知れない。 ---- 島が崩れている。 この島も終わりだ。 何もかも一緒に終わってしまえばいいのに。 そんな自分勝手な感情を吐き出す自分自身に、苛立ちすら覚えた。 だけど切に願ってしまう。 もう呪われたくはない。 この空虚な気持ちに、二度となりたくない……と。 ---- ……? 島の落下が止まった? バルログのヤツ、上手くやったのか……。 ──ああ。 長い長い時間の中で、私は幾度もこの空虚な気持ちを覚えた。 ──知っている。 今回もそうなのだろうと、思っていた。 しかしどうやら……、今回は違うらしい。 ボロスが倒された。 それはつまり……。 ---- バルコニーから景色を眺めていた。 数分前、地上の人間たちを乗せたヘリがここから飛び去っていった。 バルログや、あの兵隊も、どこかへ逃げ延びただろうか。 高所を吹き抜ける風が、私の髪を撫ぜる。 どうやら、私は悪魔の冠の呪いから解放されたらしい。 本当に、完全に解放されたらしい。 まだ信じられなかった。 本当に解けたのだろうか。 本当にボロスは倒されたのだろうか。 私はもう、呪われなくて済むのだろうか。 私は……────。 気がつくと、私は泣いていた。 涙など、いつぶりに流したのだろうか。 まだ信じられない。 また空虚な気持ちになっていた。 だけど、この空虚な気持ちはきっと、今までのものとは違う。 ぽっかりと胸に穴が開いたような感覚。 これが解放感というものなのだろうか。 時が経てば、全ての終わりを実感するだろう。 その時、私は、昔のように微笑んだり出来るのだろうか。 ---- さようなら。悪魔の王冠。 さようなら。呪われた身体。 ---- ひとしきり泣いた後、私は空を見つめた。 そして、今後、会うこともない、私を解放した彼らに。 また、出会うかもしれない彼らに。 決して届くことはない思いを、呟く。 「こんな言葉、使う機会が、くるとは……な」 自分でも笑ってしまう。 気がつくと私は微笑んでいた。 何やら、これから新たな自分の人生が始まっていくような気がする。 長く、抱いたことのない希望という思いが、私の心の中を巡る。 「バルログ、長い間すまなかった」 様々な感情が入り混じる。 バルログには本当に迷惑をかけた。 もし、また会うことがあれば、次からは優しくしてやりたいものだ。 「地上の兵隊。本当に、助かった」 あいつが何者なのかはよく分からないままだった。 ただひたすらに、感謝と申し訳ない気持ちが膨れ上がる。 色々なやつらに迷惑をかけた。 だからこそ私は、これからその罪を償って、生きたい。 最後に……。 みんなに伝えたい。 この言葉を言い終えたら、私はこの島から離れよう。 果ての見えない旅に出ようと思う。 私は自由になったのだ。 贖罪の旅も、今なら悪くない。 「ありがとう」 ────────────────────End
**終点 ---- それは、悪魔の冠に呪われた、魔女の娘のお話。 ---- あぁ……。 知っている。 長い長い時間の中で、私は幾度もこの空虚な気持ちを覚えた。 今回もそうなのだろうと、思っていた。 私は始めに、軽い気持ちで悪魔の冠を作ったのだと思う。 次第にそれがどれだけ悲惨な状況を生むのかも理解せず、私は後悔した。 初めて私の身体が悪魔の冠に呪われた時、二度と呪いは解けないと思った。 しかし、それは違った。 悪魔の冠が壊れると、呪いは自然と解けていったのだ。 私は素直に喜んだ。 自分が始めたことなのだから、上手く終わって当然だと思っていた。 だが、悪魔の冠は復活した。 あのボロスという奴が死なない限り、何度でも……。 喜びは束の間だった。 そこから、私の過ちは肥大していった。 悪魔の冠が復活すれば、呪いもまた然り。 呪われ、開放され、それを繰り返す。 次第に私は、『呪いとは一時停止しているに過ぎない』。 そう、感じるようになっていた。 私に掛った呪いとは、悪魔の冠が壊れるたびに静止し、復活するたびに蠢き出す恐怖のようなものだった。 その呪いが静止して、復活する合間に訪れる時間。 私は何とも言い切れないような、空虚な気持ちを抱く。 全てが空虚に感じる瞬間、終息の安堵に落ち着き、始まりの恐怖に怯えた。 今回もまた悪魔の冠が壊された。 なかなか悪意に満ちた人間が手にしていたのだが、増幅する力と欲望に負けて朽ちた。 今回は地上の兵隊の生き残りが破壊した。 狂った姿に変貌していた私に残った少ない理性が、それを見ていた。 助けて欲しいなどと言ってはいないが、救われたという感情が心を満たしていた。 あの人間が悪魔の冠を所持している間は、何度も暴力にあった。 逆らうことも出来ず、私は従わなければいけなかった。 それは、もう、日常茶飯事なのだからと、受け入れることしか出来なかった。 長い時間、同じ状況を繰り返していたのだから、それが普通だった。 こんなおかしな状況を打破しようと、一度も思わなかったわけではない。 何度も何度も、逆らおうとした。 そう思うだけ。そう心の中で思うだけで、私は服従した。 呪いとはそういうものなのだ。 受け入れ、服従し、幾人も殺してしまった。 罪悪感が濁り始めた辺りから、私はおかしくなってしまったのだろうか。 悪魔の冠のせいだから。 そう言い聞かせることだけが、私に出来る言い訳だったのかも知れない。 ---- 島が崩れている。 この島も終わりだ。 何もかも一緒に終わってしまえばいいのに。 そんな自分勝手な感情を吐き出す自分自身に、苛立ちすら覚えた。 だけど切に願ってしまう。 もう呪われたくはない。 この空虚な気持ちに、二度となりたくない……と。 ---- ……? 島の落下が止まった? バルログのヤツ、上手くやったのか……。 ──ああ。 長い長い時間の中で、私は幾度もこの空虚な気持ちを覚えた。 ──知っている。 今回もそうなのだろうと、思っていた。 しかしどうやら……、今回は違うらしい。 ボロスが倒された。 それはつまり……。 ---- バルコニーから景色を眺めていた。 数分前、地上の人間たちを乗せたヘリがここから飛び去っていった。 バルログや、あの兵隊も、どこかへ逃げ延びただろうか。 高所を吹き抜ける風が、私の髪を撫ぜる。 どうやら、私は悪魔の冠の呪いから解放されたらしい。 本当に、完全に解放されたらしい。 まだ信じられなかった。 本当に解けたのだろうか。 本当にボロスは倒されたのだろうか。 私はもう、呪われなくて済むのだろうか。 私は……────。 気がつくと、私は泣いていた。 涙など、いつぶりに流したのだろうか。 まだ信じられない。 また空虚な気持ちになっていた。 だけど、この空虚な気持ちはきっと、今までのものとは違う。 ぽっかりと胸に穴が開いたような感覚。 これが解放感というものなのだろうか。 時が経てば、全ての終わりを実感するだろう。 その時、私は、昔のように微笑んだり出来るのだろうか。 ---- さようなら。悪魔の王冠。 さようなら。呪われた身体。 ---- ひとしきり泣いた後、私は空を見つめた。 そして、今後、会うこともない、私を解放した彼らに。 また、出会うかもしれない彼らに。 決して届くことはない思いを、呟く。 「こんな言葉、使う機会が、くるとは……な」 自分でも笑ってしまう。 気がつくと私は微笑んでいた。 何やら、これから新たな自分の人生が始まっていくような気がする。 長く、抱いたことのない希望という思いが、私の心の中を巡る。 「バルログ、長い間すまなかった」 様々な感情が入り混じる。 バルログには本当に迷惑をかけた。 もし、また会うことがあれば、次からは優しくしてやりたいものだ。 「地上の兵隊。本当に、助かった」 あいつが何者なのかはよく分からないままだった。 ただひたすらに、感謝と申し訳ない気持ちが膨れ上がる。 色々なやつらに迷惑をかけた。 だからこそ私は、これからその罪を償って、生きたい。 最後に……。 みんなに伝えたい。 この言葉を言い終えたら、私はこの島から離れよう。 果ての見えない旅に出ようと思う。 私は自由になったのだ。 贖罪の旅も、今なら悪くない。 「ありがとう」 ────────────────────End

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