太郎少年の夏_きりちん編2

アウタースペース

死後の世界について説明しよう。
照明は暗めだが、はるか彼方まで見通せる。
遠くの景色は六角形の、あれだ、戦争シミュレーションゲームの床に使われるヘックスシートで覆われており、距離がわからない。夜空の星の距離がわかんない感じ。
床は六角形の白いパネル。宙に浮いているらしい。周りには何もない。
しかし、目の前に、例のドッペルゲンガー氏がいる。どうやら死神だったらしい。
その死神が口を開く。
「あっけない死に様だね、正面衝突の衝撃で、首の骨やらなにやらが折れてて、ミンチよりヒドイよ。」
あまりにも救いようがない状況に、僕は何もいいかえすことができない。
「でも、よかったね。偶然居あせた桐子さんが、首の骨を折り直して、助けてくれるそうだ。感謝することだね。」
「お前もな。」
そう言って、転校生(そういえば名前は桐子だった)が現われた。
絶壁の床の上に、視界の外から歩いて現われるなんて非常識な登場の仕方だ。
「な、転校生、どうしてここに。」
「痛くないから、がまんするのよ。」
当然の疑問をスルーし、転校生はニヤリと笑う。そして、転校生は呪文の詠唱を始めた。
「地獄の業火、死骨の山の支配者よ、7つの大地の焼き払う、7つの竜の首をもって、この者を・・・」
これはまずいと思った。
「ちょっ、それ絶対なンか間違ってる! 大体、首の骨を折り直すってどうやるんだよ! おい、お前も見てないでなんとかしてくれよ!」
「観念するんだね」
「がぁーっ! 死にたくねえー!」
僕は、迫ってくる転校生から逃げようとして、床の縁を越え、奈落に向かって落ちてしまった。
「あぁぁぁぁぁぁー!」
はい、死亡。

臨死体験後の近況

どうやら 夢オチ だったらしく、自宅で目が覚めた。
「・・・よし、何も問題なし。たぶん。」
なんだか落ち着かず、独り言を言ってしまう。
時刻は7時に近づいている。急いで夕食を食べて、学校で肝試しだ。

うちの夕食は母ちゃんと僕と二人。父は仕事で居ない。
トンカツを口でもごもごしつつ、視界の端にヘンなものを見つけた。
「UFOキャッチャーの景品?母さんそういう趣味あったの?」
トラだの犬だのトカゲだの、ヌイグルミの類が部屋に散らばっている。
「なにかあるの?お父さんがまた壊れてるんじゃない?」
「ふうん。」
父は昼から早朝にかけて仕事に出ている。何の仕事かは忘れた。
ときどきひどく酔って帰ってきて、憑き物がついたように意味不明の言語を話し出すことがある。そうでなくても、いつも暗い部屋で気絶するように寝ているところにはとても近寄れない。
それと加えて、母も相当の放任主義で、こうして夜に外出することに何の疑問も抱いていないらしい。
「それじゃ、田中ん家に遊びに行ってくる。」
「朝食までには帰るのよ~。」
「あーい。」

夜の世界

ぽつりぽつりと街灯が立つ、暗い夜の町を歩いて、学校に向かう。
光の差さない場所が奈落(落ちたら死ぬ場所)になっている。角を曲がると、小さな市松人形がこちらを見ている。そんな妄想を振り張らないながら、歩く。
空は、満月。月食というのだろうか、赤茶色くて、くすんだ色だ。

校門につくと、3人が居た。親友の田中氏、不良もどきの香里、あと窓際令嬢の亜里沙だ。
朝の部で説明し忘れたから説明しておく。
亜里沙は結構大きな家に住んでいる。社長令嬢というやつらしく、金持ちのオーラをまとっている。童顔(ていうか子供だし)でほのぼのとした表情をしており、体育の時間は休んでいる。おお、それってなんて萌え要素、と思うことなかれ、相当の毒舌持ちである。一見さんはお断りだ。
僕を含めたこの4人は、杜の町38丁目出身のクラスメイトであり、幼稚園時代からの幼馴染である。この近辺の幼稚園、小学校は1校1クラスしかないため、なじみ度も相当のものである。

「よし、揃ったな。それじゃあ中に入るよ。」
集合地点の校門から、学校の裏にぐるりと回り、フェンスの破れた場所から中に入る。
夜の学校は、職員室の明りも消えて誰も居ない様子だ。
ふと、3人の姿を見て、異常に気付いた。
「香里、その頭の上のトラのヌイグルミは何のギャグ?頭防具?」
「え?何かついてる?」
香里が頭の上に手をかざすと、トラのヌイグルミは飛び跳ねて地面に降り、どこかへ走り去った。
「何だよ。何もないじゃん。」
「いや、もういいよ・・・。」
よし、幻覚確定。
僕は、夢で臨死体験をしたことで重度の幻覚症患者になってしまったらしい。
以後、得体のしれないものはすべて幻覚として視覚認識から排除する。
夜空に、得たいのしれないもの=太陽の形をしたヘンな顔、とかが浮いてこっちを見ていてもそれは幻覚だ。

女子トイレの幽霊

「おーい、みんなー、どこだぁー?」
僕は一人で校内をさまよっていた。3人の友達はみんな幽霊に食われてしまった。なんて嘘。
こんな事態に陥った原因は以下の通りである。

4人で女子トイレについた。
「個室、一つづつ調べるぞ。」
香里はやる気満々だ。
明りは僕の持っている懐中電灯一本だけ、肝試しももう何回もやっているのに、手際が悪いなと自嘲。
狭い女子トイレを、手前の個室から順に四人で覗き込んでいく。1つ、2つ、3つ・・・。
三番目で何かがあるのが定番だと思ったが、そのルールに従うのは癪であるということで、4番目にした。
「う、うわあああっ!」
一番先頭に立っていた僕は、事前に仕入れていた血糊を、みんなに気付かれないように両手にかけ、うそ臭く悲鳴を上げながら振り返った。

「効果テキメン。ていうか、みんな足速すぎだって。」
3人は、危機を感じ取るやいなや、全速力で逃げ出し、僕を置き去りにした。
「みんなちゃんと家に帰れんのかな?」
逃げようとした者から順に襲われるというホラー映画の法則とかそういうのを信じて、一晩教室かどこかに隠れている。そんな事態になったら申し訳ないので、みんなを探しつつ、夜の学校の探検を兼ねて、校内を一周してみることにした。

「お~い。さっきのは冗談だ~。」
なんだか、後悔。

今度はマジにピンチですよ

校内を一通り一週した後、犯人は現場に戻る、という格言を思い出して、3階の女子トイレに戻ってみた。やはり、暗いトイレは怖くて一人では入りづらい。
「本当に、トイレの幽霊が出たりしないよな。」
つい独り言が漏れる。
「それならさっき除霊した。」
「うわああっ!」
不意の返答に驚き、絶叫してしまった。不覚だ。

トイレの窓縁に、巨乳転校生がいた。
除霊という言葉は軽く受け流そう。

あれ?

「じゃあ、本番をお願いします。田中たちを見殺しにしたら、夢見が悪いから。」
僕は巨乳転校生に、除霊を依頼した。
「敵をただ倒すだけなら容易い。しかし、一度食われて腹の中に入った人間を引っ張り出すには、どうしてももう一人の駒が要ることになっている。中に入るのは臭いから嫌だ。山田、お前に任せるぞ。」
僕は除霊の手伝いを引き受けた。
「あ~、僕も食われる役はあまりスキじゃないなぁ。」
いや、自分から化け物に食われるってどうよ。
「つべこべ言うな、もう来てるぞ。」
来てるって何が。
転校生の視線の先、僕の視線の先、僕の手の届くほどの距離の背後に、トイレの花子さんが居た。
花子さん、そのデザインは過去に日本中に伝播された創作物のイメージ、おかっぱ頭に、赤い服を着て、小学校に居るのにランドセルは背負っていない、顔はよくわからないか髪で隠れていてみえない、と相場がきまっている。
そのため、子供が学校のトイレで幽霊を見るとき、その幽霊の正体に関わらず、その姿はすべて、そのイメージをより強調したものになる。
そして、花子さんの行動は、人々の創造したとおりの恐ろしいものになっており、 追いかけ 捕まえ 暗闇に引きずり込む という風に確定されている。
僕は、真っ暗な洞窟の入り口のように開いた花子さんの口(あくまでそのデザインは口だけで、目や鼻など表情を確認できるものは見えない)に飲み込まれた。
飲み込まれる直前、焦燥を感じ、転校生に言った。
「まずい、太郎が起きそうだ!」

いやー、怖かった怖かった、え?何が怖かったって、そりゃぁ・・・

目が覚めた。恐ろしい夢を見ていた。まさに夢オチの連続だ。
まさか、夜の学校に田中達と肝試しに行って、転校生にあったり、トイレの妖怪にまるごと食われるなんてあるわけがない。
時刻は深夜0時、明日は休日じゃなくて、ちゃんと学校があるから、このまま眠れなくなると辛い。
だけど、もし、明日学校にいって田中たちが居なかったらどうしよう? もし夢じゃなかったらどうしようか? なんて考えてしまう。 よし、落ち着いて整理しよう。
昨日、転校生はうちのクラスに来なかったし、転校生は不良を返り討ちにしなかったし、僕はトラックに轢かれて臨死体験して自宅で無傷で目ざめたりしてないし、田中達と肝試しに誘われたけどキッチリ断ったし、家には動物のヌイグルミは転がってないし、肝試しの最中に血糊を出して悪ふざけするなんて度胸もないし、夜の学校で転校生と都合よく出会うわけがない。もちろん、トイレの花子さんが実在して子供達を食べる妖怪だったなんて。
      • いや、やっぱり気になるから、ちょっと目を開けてみよう。

僕の目は、部屋の窓に張り付いた、小さな白い手を、見た。
幻覚だったらいいなぁ。
その白い手は、大きさが1、2センチメートルくらいで、しかもこの部屋は二階。僕の視力は、まぁ隣に見える月の兎の形くらいは見えてる。
幻覚じゃないみたいだなぁ。
その白い手は、にゅうっと窓の上を動いて、カギを外側から開けて(どうやって開けるんだ!)、す~っと僕の枕の上に降り立った。
これは効きました。漏らしそうです・・・。
「山田さん、眠るか、学校に来るか、どっちかはっきりしてください。」
口がついていないのに、手がどうやって喋ったのだろうか、僕はその言葉を聞いた。その声は、転校生の声だった。
はっと、目が覚めた、つもりになった。
目が覚めても、そこは変わりのない家のベッドの中。だけど、どうするか決めた。
服は就寝装備(運動性最悪、防御力最悪、耐熱性能最悪)だけど、飛び起きて、家を飛び出す。学校まで全力疾走し、息が切れる。到着まで5分ほど。近くてよかった。
いやいや、本当に全て夢で、僕は寝ぼけてこんな格好で夜の町を走っているのかもしれない、けど。
でも、枕もとに来た、あの手が今も行く先を示して、目に見えているから、きっとこれは正しいのだと思う。

ついた学校、校門をよじ登ると、校庭には転校生と花子さんの姿が見えた。
「この役立たず!」
転校生は、こちらに振り返りもせず、僕に言いました。
転校生は、どうやらホンモノの妖怪の花子さんとなんとかして激しい戦いをして苦戦をしていた模様で(その様子はまったく想像がつかない)、僕が校門の縁にどうやって足をかけようかと苦戦している間に、花子さんに飲み込まれて見えなくなった。

      • どうしよう? 1.逃げる 2.死んだふり 3.そういや僕はどうしてこんな危ないところに? 4.それは、だってなんか面白そうじゃん 5.そんな理由で人食い妖怪の現在活動中のところにわざわざ? 6.だって、転校生がなんとかしてくれるに決まってるし 7.そうじゃなかったらあれだ、主人公はピンチになると急に目ざめるんだよ。 8.目ざめるって何、つまり夢オチ?

様々な思考で頭が混乱する間に、花子さんは にたぁり というような顔(口だけだが)をして、こっちに、にじり、にじり、と近寄ってきた。

つづく














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最終更新:2007年12月26日 00:53
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