番長GSS



『椎の花の心にも似よ木曽の旅』

 松尾バンジョーには、かつて唯一無二の親友がいた。今でこそ番長グループに身を置いているが、
そうでなかった時にはその親友とともに雑談をしたり、俳句を詠み合ったりしていた。
 もっとも、詠みあうといっても相手が詠んだ俳句にケチをつけるだけのものである。侃々諤々の大論争に
なることもあれば、罵詈雑言が飛び交い、暴力沙汰に発展することもあった。
 もっとも、バンジョーの親友も、バンジョーと同様に俳句などまったく解していなかった。
なればこそ、俳句の詠み合いなどできるわけもない。
 バンジョーの親友は、名をカズーイ曽良という。
 カズーイはバンジョーに似て色黒の巨漢である。河合曽良に似ている要素は何もないのに、
カズーイは「俺は河合曽良の生まれ変わりだ!」と豪語している。それだけに飽きたらず、
「ニンジャである松尾芭蕉についていった河合曽良もニンジャ」というカズーイの謎理論により、
カズーイもまたニンジャである。

「おい、バンジョー。今のハイク、五七五の形にすらなってねーじゃねーか! ハイクドーなめてんのか!」
「あ? 松尾芭蕉の生まれ変わりである俺のハイクをバカにしてんのか。テメーのハイクこそ、ハイクドーなめてんだろ!」
 聖杯ハルマゲドンが勃発する数月前のことだ。バンジョーはカズーイと共に俳句の詠み合いをしていた。
互いに俳句の感想を言い合っていたが、悪罵を吐いたせいで喧嘩が発生したのだ。
 両者とも無駄に体格が良いため、一撃一撃が重くとも簡単には倒れない。
顔面を殴り、胸を殴り、腹を殴り、蹴りを入れ、体中が血まみれになっても倒れない。
 しかし、時間が経つにつれ二人の力がだんだんと弱くなる。そして、両者が力尽きる形で喧嘩が収まるのだ。
「ハーッ、ハーッ、くそ、今日はここまでにしておいてやる。アンタのハイク、なかなか悪くなかったぜ、バンジョー」
「ゼーッ、ゼーッ、はっ、テメーのハイクもな、カズーイ」
 地面に大の字で寝ながら二人はそう言った。
 普段から喧嘩をしていたが、バンジョーにとってカズーイは共通の趣味を持つ大切な友人であり、最高の好敵手だった。

 だからこそ、バンジョーはカズーイの訃報を信じられなかった。その死はあまりに突然過ぎて、あまりにも受け入れ難かった。
 ―――なぜ死んだ?
 ―――どこで死んだ?
 ―――誰かに殺されたのか?
 何もわからない。
 涙は出てこない。悲しいとも思わない。それが逆に悲しかった。
 今になって、カズーイについて何も知らなかったのだ、と思い知った。カズーイのために泣いてやれるほど、バンジョーはカズーイのことを知らない。
 カズーイは俳句以外にどんなものが好きか。家族構成はどうか。どこに住んでいるのか。自分以外の交友関係は。
 だが、後悔しても遅い。カズーイの葬儀場も、墓の場所も知らない。別れの言葉を一方的に告げることすら、許されていない。

 悲しみに暮れる事ができないまま、一月ばかり過ぎた頃、バンジョーは聖杯ハルマゲドンの噂を聞いた。
聖杯ハルマゲドンに勝利し聖杯を手に入れれば、願いが何でも叶うというものだ。
 噂を聞いて、これだと思った。
 もう一度カズーイと俳句を詠み合いたい。だから、カズーイを生き返らせてほしい。
あんな奴でも、俺のかけがえの無い好敵手で、親友なのだ。
 その願いを叶えるために、バンジョーは聖杯ハルマゲドンに参戦した。

一体誰がカズーイを殺したんだ……

『メイサのタロット相談室』


さて、時間は聖杯ハルマゲドンの開催される暫く前にさかのぼる。

「ありがとうございました」
「これぐらい私には簡単な事。思いが届くとよいですね。それではごきげんよう」
その日もいつものようにタロット研究会の会長幕嶺メイサが、部室に相談にきた女性生徒を見送っていた。

タロットカードは黄金の夜明け団の影響を受けた魔術道具の一つである。
たとえばアーサー・エドワード・ウェイトが、黄金の夜明け団の解釈に基づいて作ったウェイト版タロットは多くの近代の創作タロットのもとになっているのだ。
当然、メイザースの魔力を受け継ぐメイサもタロットカードの名手であり、修行も兼ねて部室で校内の生徒の悩みを占ってみたりしているのだ。
いつになっても女性に占いというものは人気であり、よってそれなりに人も来る。
もちろん、より正確な結果を必要とする場合は入念な儀式の準備を必要とするのだが、校内の生徒の相談ぐらいなら簡略化したものでも、優秀な魔術師の彼女なら特に問題はない。

女生徒を見送ったのち、暫く部室で待っていると容姿端麗な少女が入ってきた。同性のメイサから見ても美しく、知的な雰囲気でもある。
年齢はメイサより一つ年上といっただろうか。手には本が握られている。
恋愛の相談か何かだろうか。メイサが少女に応対する。

「私は藺草玲央那だ、よろしく」
「幕嶺メイサです。今日はどのようなお話でしょうか」
「ちんこが意思を持った器官」であると証明するにはどうすればよいだろうか?」
「は?」

予想外の答えに何を言ってるのか理解できず思わず聞き返してしまった。いま彼女はちんこと言ったのだろうか。
いや多分聞き違いだろう。そうに違いない。

「ちんこが意思を持った器官」であると証明するにはどうすればよいだろうか?」
「ち……ちん……こ…ですか…?」
どうやら聞き違いではないようだ。何かの魔術の儀式の話なのだろうか。
困惑を隠し切れないメイサに対し、玲央那が続ける。
「私は勃起について考察するのが好きなのだが、転生前、「ちんこが意思を持った器官」を証明することができなかった。
そこで転生した現在改めてそれを証明したかったのだが、しかし遺憾ながら私は女性に生まれてしまった。これは色々と都合が悪い」
「は…はぁ…」
言ってることは理解しがたいが、転生という言葉を聞く限り、自分と同じ魔人英雄だろうか。
「そこでだ!タロット占いの名手でありすぐれた魔術師の君なら何かよい方向性を出せるに違いない!そう考えてここに来たわけだ」
「そ…そうですか…」

メイサとしては理解に苦しむのだが、本人には重要な問題なのだろう。
そう判断しタロットカードを取り出すと、机の上に広げ、その中から1枚のカードを抜きだす。
これはワンオラクルと呼ばれるスプレッドである。そしてメイサは抜きだしたカードを表にする。
『塔』のカードである。これは悲劇や失敗などを暗示するカードである。
「ちんこが意思を持った器官」を証明することなど普通に考えれば出来そうもないので、当然と言えば当然の話であるのだが…

「これはちんこに違いない!」
「はぁ?」
メイサがリーディングの結果を告げようとするその前に玲央那がいう。
「天高くそそりたつ塔。これは勃起したちんこを暗示しているに違いない。これは素晴らしい結果だな!そうに違いない」
「え…えぇ…!?」
そのあとメイサはなぜか長時間にわたり玲央那から勃起とは何か、ちんことは何かを一通りうんざりするぐらい説かれることとなった。
勃起について語る玲央那はそれはそれは楽しそうだったという。

悔しいけどちんこネタは笑えてしまう

無題

「私は諸葉芽衣子!孔明と呼ばれるのは嫌だけど孔明の生まれ変わりらしい!」

今、芽衣子の体は怒りに支配されていた。何でも自分と同じグループにあの恵帝の
生まれ変わりがいるらしい。

恵帝は孔明の宿敵司馬懿の子孫であり、悪政によって国を崩壊させ三国志の英雄達の頑張りを
全部パーにしてしまった人物としても知られている。
芽衣子に流れる孔明の意思が恵帝の生まれ変わり見たらブッ殺すと決意させていた。


「私は楊貴妃の生まれ変わり玉環、通称タマタマアル!中国で支配者を骨抜きにしてたネ!」

今、玉環はすっげーやる気に満ちていた。何でも自分と同じグループにあの恵帝の
生まれ変わりがいるらしい。

恵帝は子供の頃から王家の全員に無能呼ばわりされていた王であり、
生涯一度も自らの手で政務を行わず嫁とその親族に丸投げしていたという。
そんな奴がいると聞いては、玉環の食指が動くのは必然の事である。


「恵帝、見つけたらゼッタイ殺す!」
「恵帝、見つけたらゼッタイ汁が無くなるまで犯すアル!」
「アワワワワワ、私には関係ないけど、が、頑張って」

二人の決意を聞きながら恵帝の生まれ変わりのケイティーはガクブルしていた。
「米が無ければ肉を食べればいいじゃない」と発言した事が、
マリー・アントワネットの「パンが無ければケ-キを食べればいいじゃない」
の元ネタになったという説によりケィティーの外見は服を着ていれば
マリー・アントワネットそのものである。
それ故に番長グループが集まったばかりの今は気づかれないでいるのだが、
いずれ名簿で確認すれば自分の正体がバレるのは確実である。

こんな事なら生徒会側につけば良かったと思うケイティーだった。

「私は尚雲梓の力を得た鞘雲梓!番長グループにいるらしい恵帝は
多くの人を苦しめた愚かな王、決して許さない!見つけたら殺す!」

向こうは向こうでこんな事になっていた。
ケイティーの明日はどっちだ!!

前世が迷惑をかけるにも程がある

『番長グループ交流会・おまえらさっさと肝試ししろよ の巻』

 二千年代において、番長小屋は汚いモノの代名詞とされ、忌み嫌われるものであった。近寄るのは歴代の番長グループの人間くらい。例外として、ハルマゲドンにおける生徒会がそれにあたる。
 だがこの三千年代、それは過去のものとなり、代わりに奇怪なモノの代名詞となった。
 それもそのはず、名前こそ小屋といういかにも小さいものだが、三千年代における番長小屋は高さ二百メートル地下五十メートル敷地面積六万平方メートルの巨大なビルと化している。
しかし、ビルと呼ぶにはあまりに無機質過ぎる。それはもはや、鉄塊である。
 かつて番長グループの人間が自由気ままに住処を改造してしまったせいで内装は迷宮のように複雑な構造になってしまっている。
「改造のしがいがない!」ということで番長小屋の敷地面積を勝手に広げたり、高さを増やしたり、地下にまで開拓の手を広げることが多かった。
 この迷宮めいた番長小屋だが、耐震性は折り紙つきだ。過去五十回ほど起きたマグニチュード8.0以上の地震に全て耐え切ったという実績がある。
 歴代の番長グループの人間にはこの番長小屋に住み込む者が多くいる。ちょっと走れば校舎に着くし、管理人がいないため家賃もいらない。
食事は皆で協力して作るようになっており、電気はその巨体を生かし太陽光発電や風力発電で賄っている。公共浴場やインターネットカフェなど、娯楽施設は大量に存在する。
 ちなみに、昔は学校から勝手に電線を引いて電気を使っていたのだが、それが学園にバレてしばらく無電状態となってしまったということがある。それ以来、自家発電可能な設備を整えた。
電気を操る能力者がいたらその人に発電させて電気を賄うこともある。特に、電気を異常に食う夏場はフルで稼動しても供給が間に合わない場合があり、そのような場合は電撃能力者の出番である。
 卒業後もこの番長小屋に住み着くものは多い。そういった者たちが普段番長小屋の管理を行なっており、彼らは「管理者」と呼ばれる。
ただし、先述したとおり厳密に定められた管理人はおらず、持ち回りで管理を行なっている。

 そんな番長小屋で、毎年恒例の行事がある。
 肝試しだ。
 実はこの番長小屋、年に二、三人ほど死体が発見される。興味本位で立ち寄った者が、迷い込んだまま餓死してしまうことがある。その餓死者がここで発見される死体である。
管理者たちはなるべく死者を出さないように努めているが、それでも見つからない、ということはしばしばある。
 そのため、「死者たちの魂がこの番長小屋にお化けとして残っているのではないか」と言う噂が番長グループだけでなく、希望崎中の生徒の間で噂になっている。
 なにせ、魔人英雄というオカルティックな存在がいる世の中だ。死者の魂がお化けとして存在しているという噂が信じられているのも当然であろう。
 そんな噂がこの三千年代にも存在しているため、肝試しという行事が存在している。
 なお、ルールは簡単。最上階の部屋に立てられたフラッグを取ってくる、というだけのものである。この時、番長小屋のブレーカーを落とし電気を使えなくしてある。
すなわち、エレベーターはが使えないので行きも帰りも徒歩で行くことになる。手持ちはペンライトのみ。
 以上が、この肝試しのルールである。
 さて、現在番長グループは番長小屋の入口前にいる。肝試しの順番と、ペアを決めあぐねている。正確に言えば、わざと肝試しの開始時刻を引き延ばしているのだ。
「みんなー、がんばれー!」
 むねしげ君の空虚な応援が夜空に響き渡る。番長グループの殆どはむねしげ君で遊んでいる。興味がないために遊んでいたり、恐怖を紛らわそうと必死になっていじっている者もいる。
「さっさと分け方を決めてくださいな。もうとっくに肝試しの開始予定時刻は過ぎてんですよ」
 そう愚痴をこぼしたのは、死を告げる風である。ペア決めと順番決めのためにわざわざくじを作ったりと、なかなか苦労したのだ。
ただし、苦労といっても一から十二まで番号を振ったわりばしを二組作るよう後輩たちに命令しただけである。
「誰のせいで開始時刻が遅れていると思っているネ。さっさとするアル」
「あなたのせいですよ、玉(オク)先輩……あれがいいこれがいいと駄々をこねまくった挙句に初期案のくじがいいネとかやっぱワタシが選ぶアルとか喚いたせいで一向に決まらないんです」
 呆れ気味で玉環に愚痴をこぼしているのは薔薇前来栖である。彼の発言通り、玉環があれやこれやと喚き散らしているせいで、肝試しの順番が決まらないのだ。
ちなみに、彼は死を告げる風のくじ製作を手伝った一人である。
「何言ってるアル。私の意見は最初から決まっていると言っているアル」
「じゃあ、さっさと決めてください。僕達はあなたのせいでどれだけ待たされてると思っているんです? 悪霊が取り付いていたから、とか、気が変わった、とか言わないでくださいよ」
「無問題ネ。中国人ウソつかないアル」
 掌中のライチを皮ごと噛み砕きながら、玉環は胸を張った。
「その通り。中国人はウソをつかん。おんしらは反省するのだ」
 誰の目から見ても擁護しようのない玉環を擁護するのはケイティーである。彼女もまた、肝試しの開始時刻を遅らせている戦犯の一人である。
「さっさと決めてくれないすかねえ。そうじゃないと、夜が明けちまいます」
 諦め気味に呟いたのは、柳下紀夫だ。彼もまた、死を告げる風にくじ製作を命令された人間の一人である。
「あなたたちだって、さっさとこんなもん終わらせて寝たいっしょ? だったら、つべこべ言わずに俺達に従ってくださいよ」
 もちろん、こんな言葉がこの二人に聞くはずがない。聞く耳を持たないまま、二人は弁解、もとい否定を始めた。
「だから、私は最初から同じ意見を言い続けてきたアル。悪いのはお主らネ」
「玉環は何も悪くないのだ。悪いのはおんしらだと言っておろう」
 そう、先程からこのイタチごっこである。この二人のせいで、事態が何一つ進んでいないのだ。
「あらあら、いかがなさいました?」
「あっ、龍神先輩! お願いします、先輩からも一言言ってやってください!」
「何を言うアル。私は悪くないと言っているアル」
「ふむう、明らかに責任はこやつらにあると言っておろうに」
 龍神ひとみはゴミを観るような目付きで二人を観察した。ライチの食いカスがボロボロと服にこぼれていて、玉の体は食いカスまみれである。
しかも、口を開けながら噛み砕いているため見ていて非常に不快感が湧き出てくる。
「……彼女たちのせいで肝試しが進んでいないってことでしょうか?」
「さすが龍神先輩。お察しが早くて助かります」
 ぺこりと頭を下げる来栖。これくらい、龍神ひとみでなくとも理解できるだろう。
「しかし、私に解決策を求められても……」
【ふむ……ひとみよ、彼奴らを食ってしまえば良いではないか……】
 妙案が浮かばないひとみに対し、オロチがおぞましい提案をした。
「だ、だめです。彼女たちは私たちの仲間です。そんな、食べるだなんて……」
「んー? キングギドラちゃん、何をぼそぼそつぶやいているアル?」
 玉環の一言で、龍神ひとみの中の何かがプツンと切れる音がした。
 キングギドラちゃん。それは、龍神ひとみが最も嫌いな呼び名ランキングの上位五位に入る呼び名だ。彼女は「ヤマタノオロチってキングギドラのパクリだろ」と言われることが一番嫌いなのだ。
 ヤマタノオロチもまた、キングギドラ扱いされると逆鱗に触れてしまう。
「……気が変わりました。オロチ、このお二方を喰い殺しなさい」
 怒気混じりの声を発すると、彼女の背中から八本の竜の首が這いでてきた。これは龍神ひとみの能力『生贄≪あなた≫の人身≪ひとみ≫』だ。
背中に刻まれた刺青からヤマタノオロチの魂が出現して、能力の代償としてこの二人を生贄にしようというのだ。
 ヤマタノオロチの姿を目の当たりにしたケイティーと玉環は、その畏れを目の前にして失禁してしまっている。歯をガチガチ鳴らし、目尻から涙が零れそうになっている。
 死を告げる風、薔薇前来栖、柳下紀夫の三名は、ヤマタノオロチの恐ろしさに言葉も、手も足も出ないでいる。
「わ、私達が悪かったネ……だから、許して欲しいアル……」
「や、やめぬか。私は二度も死にたくはないのだ。私が悪かった。命だけは……」
【この我をキングギドラ扱いした罪、その身を持って贖うが良い……】
 命乞いをする二人の言葉に耳を傾けず、八つの頭は同時に二人を襲った。
 ―――だが、二人は死んでいなかった。それもそのはず、ある人物が彼女らを守ったのだ。
 その正体は夢結やしろ。襲いかかろうとする八つ首を、細腕で一纏めにして動きを封じている。
「ふう、間に合いました―――」
 ヤマタノオロチの魂は必死に腕から逃れようとしているが、やしろの体はぴくりとも動かない。汗ひとつかかずに安堵の溜息をついた。
「いけませんよ、こんな所で仲間割れなんて」
 八つ首のそれぞれ一つ一つに対し、コツンと叩いた。すると、ヤマタノオロチは風船玉がしぼむように沈静化した。
「いい子ですね。もう、こんな勝手なことしてはいけませんよ」
 やしろは優しく微笑み、一つ一つの頭を撫でたあと、首を離した。ヤマタノオロチの魂はするすると龍神ひとみの背中に戻っていく。
「どうして……?」
 何が起こったのかわからない、と言う様子で龍神ひとみはやしろを見つめた。
「イザナギさんが、私に力をくださったんです。あの方たちを助けるための力を」
 やしろは龍神ひとみに少しづつ歩み寄っていく。龍神ひとみは少し後ろに下がりそうになっていたが、その場にとどまった。
「……詳しくは存じていませんが、あの方たちが先に無礼を働いたのでしょう。しかし、それでも仲間を殺めるようなことがあってはいけません。
私たちは共通の目的を持った仲間です。ここで仲間割れを起こすようでは、敵方の思うつぼです」
 やしろは龍神ひとみの目と鼻の先で止まった。そっと龍神ひとみの手をとった。
「ですから……我慢してください、とまでは申しません。でも、仲良くしてください。ひとみちゃん」
 やしろは、ヤマタノオロチに見せた笑顔を、今度は龍神ひとみに向けて「魅」せた。
「あ……あっ……は、はい……」
 龍神ひとみは、赤面して俯いた。手も耳も真っ赤になっている。「ひとみちゃん」と呼ばれたこともあるが、なによりやしろの笑顔にときめいてしまったのだ。
 手をゆっくりと下ろし、龍神ひとみはケイティーと玉環の前に現れた。二人は先程の影響もあり、龍神ひとみに恐怖心を抱いているようだ。
 龍神ひとみは深呼吸をする。こんなことに、コミュ力は使わない。
「先程は過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
 頭を深々と下げる龍神ひとみ。それを見た二人は、戸惑いながらも、元の威勢を取り戻した。
「こちらこそ悪かったアル……でも、お主のせいで死にかけたのだから、謝罪と賠償を要求するアルッ!?」
 ケイティーと玉環は同時に頭を叩かれた。後ろには死を告げる風が立っている。
「もともとあなたたちがゴネるからこうなったわけですんで、罰としてあなた達に一番目に行ってもらいましょうそうしましょう。中華コンビだしそれが一番いいと思うのですが、異論は無いですね?」
 二人以外に、反対者はナシ。即決である。「一」とマジックで書かれた割り箸とペンライトを手に握らせた。
「というわけで、そこの中華コンビにはさっさと行ってもらいましょう。せめてものお情けとして、ライトぐらいは支給してあげますよ。
そういうわけで、さっさと行ってきやがってください。ちゃんと最上階まで行ってくださいな」
 しかし、それでも二人は不平を上げている。どうすべきかと頭を抱えていると、来栖が案を出した。
「それじゃあ、夢結さんと龍神先輩を二番目にしたらどうでしょう」
 二人は一瞬驚いた顔をしたが、その後の死を告げる風の言葉で納得した。
「なるほど、それは名案ですね。龍神さん、もしこの二人が行き詰っていたら、脅して進めたってくださいな。まあ、万が一ですが食ったらいけないので、夢結さんと共にですよ。
古事記英雄のコンビですし相性いいんじゃないですか」
 龍神ひとみは照れくさそうにしながら、頬を指で掻いた。
「わ、かりました……あの、夢結さん、よろしくおねがいしますね」
 眼を軽く伏せ、手を差し伸べた。
「はい、こちらこそ」
 差し伸べられた手を握り返す。緩めかけた瞬間、手と手の間に「二」とマジックで書かれた割り箸と、ペン型ライトを二本ずつ挿し込まれた。
「それではお二方、よろしくおねがいします。私はこれから残りの人にこれを分けなきゃいけませんので、失礼します」
 そう言うと、死を告げる風と残りの二人はむねしげ君のまわりで屯っている連中の周りに突撃していった。
「えっと……」
 龍神ひとみは中華の二人組の方を見ると、二人は「ひっ」と悲鳴を上げて番長小屋に突入していった。
「あ……怖がらせちゃいましたか……」
 龍神ひとみはもの寂しそうに呟く。
「いいんじゃないでしょうか? 確かに、やりすぎた気もしますが……」
 気に病まないほうがいいですよ、と励ました。それを聞いて、龍神は照れくさそうにしながらも少しだけ表情を緩めた。
 五、六分ほど雑談に興じたところで、やしろは龍神ひとみの手を引いた。
「そろそろ時間ですし、とりあえず、私達も入りましょう、ひとみちゃん」
「はい!」
 龍神ひとみと夢結やしろは手をつないで、そっと番長小屋の扉を開けた。

肝心の肝試しが始まってないけど、キングギドラを始めとする細かい会話のネタが秀逸

『摸部伽羅子の憤慨』


 通常、魔人英雄として目覚めたものは、憑依した英雄に恥じないよう、それなりに元の英雄らしく振る舞うものが多い。
それについては大なり小なり差があり、勘違いしている者もいるが、どんな形であれ憑依した英雄を各々がリスペクトして生活する。
 それは、周囲の人間が魔人英雄に求めるものでもある。

 だが、それに従わない数少ない例外が、この番長陣営にいる。
 摸部伽羅子だ。
 彼女は憑依している英雄こそカエサルであるが、全くといっていいほどカエサルをリスペクトする様子はない。
周りの人間からも、「お前のどこにカエサルの要素があるんだ」と非難されるほどだ。
 だが、摸部は「なぜ魔人英雄になったからといって生き方まで変えなければいけないのか」と反論した。
 自分の生き方くらい、自分で決めたい。英雄らしく振舞えだなんて、勝手すぎる、と。

 もともと摸部は、どこにでもいる一般的な少女だ。と言っても、特徴がない、というわけではない。
普通の少女のように、趣味や特技を持ち、友人がいて、恋をしたり、教科に得手不得手があったり
……決して平均的というわけではないが、一般的な少女だ。
 そんな摸部にも、誰にも負けない特技があった。母親から教えてもらった裁縫である。

 幼い頃、母親に作ってもらった服はとても歪で、かっこわるかったけれど、市販の服にはない「あたたかみ」を彼女は享受していた。
だから、今度は自分がお母さんに何かしてあげたい。そんなささやかな望みから始まった趣味は、誰にも負けない特技となったのだ。
 成長するに連れ、摸部の腕前はぐんぐん上がっていた。それだけではない。中学生の時、彼女は初めてオリジナルの服をデザインし、自作するようになった。
 将来はデザイナーになろう。そう心に決めていたのだ。自分のデザインがどこまで通用するかはわからないけれど。

 しかし、中学三年の夏、専門学校での推薦入試に向け勉強していた時。彼女は突然、魔人化した。
それだけではない。カエサルの思念体に乗っ取られ、魔人英雄となったのだ。
 魔人化した時は、何かテレビ番組を見ていたということしか記憶にない。その番組がカエサル特集か何かかもしれないが、今となってはどうでもいい。
 その時一緒に見ていた家族は、呆然としていた摸部を正気を取り戻させたあと、事情を尋ねた。
少しだけ、悲しそうな顔をしていたのを覚えている。
 当然だ。進学予定の専門学校は、魔人の入学はほんの僅かしか許されていないし、推薦枠もなかった。
ならば、それほど学力の高くない摸部は、諦めざるを得なかった。
 だが、悲劇はそれだけに収まらなかった。魔神英雄となって以来、摸部はカエサルらしく振る舞うことを周囲に要求された。
カエサルらしく生きろ。カエサルのように振舞え。そう言われても、摸部は耳を貸さなかった。
 当然、周りの評価は下がっていった。彼女は魔人英雄としては欠陥品だ、と。
 ばかをいうな。どうして自分の人生を自分で決める人間が欠陥品なんだ。
 そう主張すればするほど、周りの見る目は冷たくなっていく。

 ―――ならば、魔人英雄などやめてしまえばいい。
 自分の生きるべき人生も選べないのなら、魔人英雄などやめてやる。
 だが、魔人になった人間は二度と元には戻れないと言われる。
 しかし、聖杯ならどうだろうか? 聖杯なら、私の願いを叶えてくれるはずだ。
 ……魔神英雄が現れるとき、聖杯をめぐる争いが勃発する。そのような言い伝えがあるさ。
 なら、それに乗ろう。それしか無いんだ。私が元の生活に戻るためには。

 そして彼女は希望崎に入学した。聖杯ハルマゲドンの勃発には、あと一年弱かかる―――

しかしSSでの魔人英雄は前世のせいでろくな目にあってない奴ばかり見るな……

ごっつええダンゲ ~エキセントリック英雄ガール 編~


ダーッダダッダ(ダカダカダ)
ダーッダダッダ(ダカダカダ)
ダダーッダダーッダッダー

エキセントリック エキセントリック
エキセントリック英雄ガール

作戦会議が揉めているのは
エキセントリック(英雄!) アラヤがいるからさ

強いぜ 強すぎるぜ 連鎖守護 (ウロボロス)
効果も充実 嬉しいな
仕置きの刃だ 「永続リザーバー召喚!」

呼べば応える 腐れ縁
ただれた仲間さ 人畜無害の 英霊

墓守獅子女! 
「ファラオーッ!」

伊賀路子! 
「鳥になりたい…」

龍神ひとみ!
「くっ…右腕が…!」
さあ みんな行くぞ!

同棲相手は 帝の妾
今はフリーのワケあり 玉環!
「タマタマと呼ぶヨロシ!」

敵か味方か 柳下
「十兵衛じゃ!十兵衛を呼べ!」

だけど 寂しい事もある
「これって制約二重取りじゃないの?」

デーデーデーッ

過疎るぞ掲示板! 過疎るぞ掲示板!
そんなに人いない

食らわせろ 食らわせろ
私も知らない 謎の提出
「これ孔明当たんねーかなー」

エキセントリック エキセントリック
エキセントリック英雄ガール

3人のお供が全員召喚制約の対象外じゃねーかww

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最終更新:2012年03月20日 23:17